2011/02/18

セーフティーネット

 かつての貧乏文士が、どうにか食っていけたのは、彼らなりのセーフティーネットのようなものがあったからではないか。
 経済面のこと以上に、多様な価値観を許容する寛容な「場」に救われることもあったとおもう。

 たとえば、Kさんは仕事中に小銭をにぎりしめて町に出かけて何の役にも立たない軽石を買ってきたり、銭湯に行って一風呂浴びて、そのあと下駄の上に座ってぼーっとアイスキャンディを食べたりする。

 Kさんは仕事量もすくなく、作るものはあまり売れない。
 もしKさんが勤め人だったら、完全なダメ社員だろう。

 しかし文壇ではKさんは「飄々とした作風」などと評され、同業者のファンは多かった。生前はずっと貧乏だったけど、没後の評価も高い。

(……以下、『閑な読書人』晶文社所収)