2014/10/28

海街diary

 先週コタツ布団を出した。朝方はすこし冷える。
 コタツといえば、腰痛。毎年、コタツの季節になると、腰痛の兆候の二、三歩手前くらいのピリっとした痛みをおぼえる。
 昨日も原稿を書いたり、インターネットでプロ野球のドラフトと戦力外情報を追いかけたりして、ずっと座りっぱなしで、立ち上がった瞬間、いやな予感がした。すぐ薬を飲んで、安静。なんとか事なきを得た……はず。散歩しよう。

 布団にひきこもって、吉田秋生の『海街diary 6 四月になれば彼女は』(小学館)を読む。キンドル版が出るのが待ち遠しかった。

 この作品は川本三郎著『時には漫画の話を』(小学館クリエイティブ)で知った。川本さんは「近年でもっとも好きな漫画」と絶讃している。

《全体にチェーホフの『三人姉妹』やオルコットの『若草物語』の現代版の趣がある》

『フライの雑誌』を読むようになって、近々、釣りをはじめようと決意(来月、釣り竿を買う予定)。本を読んでいても、やたら「釣り」という言葉に反応してしまう。『海街diary』の四姉妹の三女千佳が、鎌倉のスポーツ用品店で働いていて釣り好きという設定だ。

 ちなみに、長女は看護師、次女は地元の信用金庫、末っ子(姉たちとは母親はちがう)は中学生で女子サッカーの選手である。

 二巻で千佳は『月刊へら王』という雑誌を読みながら「よっしゃ! このタイミングか!」と釣り竿をふっている。

 最新刊で四姉妹は金沢(四女すずの亡くなった母の郷里)を訪れるのだが、そこでも千佳は観光そっちのけで加賀毛針(鮎毛針)を買いに行くシーンがある。彼女たちの亡くなった父も渓流釣りが趣味だった。

 すこし前まではこういうシーンをなんとなく読み飛ばしていたかもしれない。わたしはずっと作者の意図みたいなものを探るような読み方ばかりしていた。興味や関心事が増えると読み方も変わってくる。

 登場人物の仕事ぶりや職業観、家族模様……。メインからサブまで、ここまで緻密な人物造形がほどこされた群像劇は、そうはない。ストーリーだけでなく、細部のおもしろさが、作品のふくらみになっている。

 長女の幸が勤めている病院で緩和ケアの仕事に就くのだが、このあたりの話も東京ベンチの砂金さんと会ってなかったら、そんなにピンとこなかったとおもう。

2014/10/21

原点回帰と進化

 10月12日(日)、高円寺ペンギンハウスで「ノラペンギンの夜」、10月13日(月・祝)、吉祥寺JBでオグラ文化祭、10月19日(日)、中央林間のパラダイス本舗で東京ローカル・ホンクのライブを見た。

 先月末から岡山から藤井豊さん、中旬は京都から東賢次郎さんが上京し、仕事部屋で合宿状態だった。東さんはペンギンハウスにはバンドのつれ・づれで出演し、滞在中、連日ペリカン時代で飲んでいた。

 とはいえ、この間、しめきり続きで、節酒……していたことになっている。寝ている時間と飲んでいる時間以外の大半は仕事をしていた(自己新記録を更新するくらいの仕事量だったのです)。

 昔、出版関係の仕事をしている先輩が、「四十代は目先のことばかりやっているうちに、あっという間に十年くらいすぎてしまう」といっていた。その話を聞いたときは、まだわたしは三十代の前半くらいで「目先の仕事でも何でもいいからほしい」とおもっていた。今はよくわかる。

 かけだしのころと比べれば、多少は効率よく仕事ができるようになったのだが、一本一本の仕事をしたあとの疲れがちがう。休み休みやっているつもりでも、あんまり休んだ気にならない。

 自分の中で、オグラさんの「次の迷路へ」の「見つからないものを探しに」という詩、東京ローカル・ホンクの「夜明け前」の「もっとちがう何か」という詩も深く胸に残っていた。

 この曲を作ったあと、ふたりは次にどんな曲を作るのだろう。

 オグラさんの新曲「船乗りマイペ」は、音楽をはじめたころの感性と熟練の職人技を合わせて作ったような見事としかいいようのない曲だった。曲の出だしから「そうきたかー」とふるえた。バカバカしくて、おもしろくて、かっこいい、ごった煮の音楽。

 東京ローカル・ホンクの新曲「遅刻します」も、まだ見ぬ世界を見に行こうというようなおもいがこめられていて、今の自分のもやのかかった視界がひらける気分を味わった。木下弦二節としかいいようがない曲だった。

 ミュージシャンは、原点回帰しながら進化する。たぶん、すごく大きなものを受けとった気がするのだが、しばらくは消化できそうにない。

2014/10/12

マイケル・ルイスの新刊

 先週は新宿のベルクで藤井さんの写真展を観て、今週はステーキハウスKYOYAで肉を食った。うまかったし、居心地もいい。途中から白ワインを飲み続け、ふつうに飲み屋にいる気分になった。ラーメンとうどん以外の外食は久しぶりだった。
 毎日、飲んだり本を読んだり仕事したりしている。仕事がつまってくると、部屋にこもがちになるのだが、なるべくいつもどおり散歩や家事をしたほうがいい。そうしたほうがよく眠れるし、その結果、仕事もはかどる。

 文藝春秋のマイケル・ルイスの新刊が気になるのだが、その前に何冊か仕事に関係する本を読まないといけない。といいつつ、結局、『フラッシュ・ボーイズ 10億分の1秒の男たち』(渡会圭子、東江一紀訳、文藝春秋)を読んでしまった。我慢できなかった。我慢できるわけがない。

『フラッシュ・ボーイズ』は、投資の世界で繰り広げられていた、ミリ秒、マイクロ秒といった単位の速度で売買情報を察知する超高速取引業者たちのカラクリを暴いていくノンフィクションである。マイケル・ルイスは『マネー・ボール』が有名だけど、『フラッシュ・ボーイズ』も難攻不落のようにおもえるシステムに変化を起こす個人(変わり者やはみだし者)を描いていて、金融や株の話がわからないのに、おもしろい(いちおう、九〇年代には経済系の業界紙の仕事をしていたのですが……)。

 読んでいる最中から、これはまちがいなく映画化されるだろうとおもった。日系人のブラッド・カツヤマ役は誰がやるのだろう。すでに『HEROS ヒーローズ』でヒロ・ナカムラの役のマシ・オカにオファーがいっているのではないか。ハマリ役だとおもう。

……と、ここまで書いて、訳者あとがきで、東江一紀が今年六月に亡くなっていたことを知った。別名義は楡井浩一。ジャレド・ダイヤモンド著『文明崩壊』(上下巻、草思社文庫)やビル・ブライソン著『人類が知っていることすべての短い歴史』(NHK出版)の訳者でもある。

 東江一紀のノンフィクション系の翻訳を愛読していた身としては、あとがきを読んで、呆然となって、飲んでいる場合ではなかったのだけど、ペリカン時代に飲みに行くことにした。
 しばらく飲んでいたら、先日、長野でお世話になった書店員兼編集者の塚田さんも来て、『フラッシュ・ボーイズ』の話になって、「アガリエさんの担当だったことがある」という。すごく面倒見のいい人で、若い翻訳者からも慕われていたそうだ。酔っぱらっていたけど、わたしが東江訳のノンフィクションをどれだけ好きだったかという話をして帰ってきた。

2014/10/02

『僕、馬』展その他

 岡山から写真家の藤井豊さんが上京し、ペリカン時代で飲む。『瑣末事研究』の福田さん、長野でお世話になった塚田さんと地方の話をする。
 新宿ベルクで藤井さんの「僕、馬 I am a HORSE」の写真展が開催中。
 期間は十月一日(水)〜三十一日(金) 7:00〜23:00

 住所:新宿区新宿3-38-1 ルミネエストB1(JR新宿駅東口改札20秒)

 昨日は飲みすぎた。藤井さんが帰ったあとも午前三時まで……時間の感覚がおかしくなっている。

 十月中旬くらいに行きたいライブがいくつかある。そのあたりにしめきりが重なっている。今からすこしずつやっておけばいいのだが、直前になってバタバタしそうな気がする。

 生活を立て直そうとおもいつつ、どこから手をつけてよいのやらとおもっているうちに、年末とかになりそう。

 旅行中、深沢七郎著『楢山節考/東北の神武たち』(中公文庫)を読んだ。今年生誕百年なんですね。「白笑」「戯曲 楢山節考」ほか、「第一回中央公論新人賞 受賞の言葉」「新人賞選後評」「深沢七郎氏の作品の世界(伊藤整)」「土の匂いのする文学 石坂洋次郎×深沢七郎」「舞台再訪《楢山節考》」なども収録。解説は小山田浩子。

 深沢七郎の本だと『東京のプリンスたち』が入手難なのだけど、復刊の予定はないのだろうか。

 あと新刊ですごいとおもったのは、デイヴィッド・エプスタイン著『スポーツ遺伝子は勝者を決めるか? アスリートの科学』(福典之/監修、川又政治/訳、早川書房)。ここ数年の海外のスポーツノンフィクションでは、まちがいなく屈指の本だとおもう。四百頁くらいあるのだけど、最後まで退屈せずに読めた。一頁も無駄がない。