2019/08/26

仕事の喜び

 イギリスの歴史学者、政治学者のP・N・パーキンソンは「パーキンソンの法則」でその名を知られている。
 彼が提唱した法則は「仕事の量は、完成のために与えられた時間をすべて満たすまで膨張する」「支出の額は、収入の額に達するまで膨張する」というもの。

 パーキンソンはさまざまな人生訓も残している。
 久しぶりに『パーキンソンの経済を見ぬく目』(三田貞雄訳、至誠堂)を読んでいたら、こんな言葉を見つけた。

《いちばん幸福な人間は、働く時間がいちばん短い人間ではなく、自分の仕事によろこびを見出す人間である》

 この言葉のすこし前にパーキンソンは、古い自宅の話をしている。一九一〇年、パーキンソンが生まれた一年後に建築された家は細部にいたるまで熟練職人による加工が施されていた。

《箪笥や靴箱の戸を開けたり閉めたりすると「フーシュ」という音をたてた。指物大工がこの戸を文字どおり気密につくっておいたのだ》

 大工たちはみな自らの仕事、技術に誇りを持っていた。

 わたしの母方の祖父も大工だった。当時としては珍しいひとりっ子で乳母日傘で育った。母からは気がのらないと仕事をしない人だったという話を聞いた。欄間を作るさい、いい木材じゃないと、やる気をなくしたらしい。
 そのかわり、いい木材が入ると採算度外視し、手間ひまかけて仕事した。
 つまり、仕事をしてもしなくても貧乏だった。それでも祖父の話を聞くと羨ましい働き方だなとおもう。