2023/11/21

停年

『現代の随想 福原麟太郎集』(河盛好蔵編、彌生書房、一九八一年)の「停年」を読む。

《停年というのは、普通、銀行会社などでは五十五歳だそうだが、私の勤めていた大学(東京文理科大学)では六十歳であった》

 福原麟太郎が大学を退職したのは一九五五年三月、その四ヶ月後に心臓病になり、半年近く入院した。糖尿病だったこともわかった。自分の病気に気づかなかった。教師をやめる前、「講演をたのまれれば講演をし、委員を依頼されれば委員を勤めた」。

《つまり、心臓病にしても糖尿病にしても、疲れすぎてはいけないということで、これは停年に近くなったかたがたに、是非注意していただきたいことである》

 わたしは今月五十四歳になった。七十年前であれば、停年一年前だ。今は七十年前ではないし、働かずに暮らせる身ではない。それでも仕事にせよ遊びにせよ、減速を心がけようという気持になっている。蔵書にしても増やすのではなく、減らす方向に舵を切るべきだろうと考えている(気が変わる可能性もある)。

 五十歳すぎたあたりから体が疲れにたいしていろいろなシグナルを発するようになった。素直に従うのみである。

 体の老いよりも厄介なのは精神もしくは感情の老いかもしれない。

 福原麟太郎は「停年」の中で「静かに過すことを習え」という古人の言葉を紹介している。もっとも福原自身は「のんびりした途端に病気になってしまった」とも述べている。

 平穏に暮らすのは簡単ではない。

(付記)『福原麟太郎集』の出版社名をまちがえていました(メールで教えてもらった)。