2023/09/20

生活地帯

 新居格の随筆に「生活地帯」という言葉があった。
 高円寺、新宿、銀座……。戦前戦中、新居格が歩きまわっていた町のことである。

 ここ数年、わたしは週の半分くらい高円寺の徒歩圏内から出ない。南は東高円寺から新高円寺、北は野方、東は中野、西は阿佐ケ谷、荻窪——「生活地帯」はだいたいそんな感じだ。
 スーパーのオオゼキが今年八月一日に閉店、ちょくちょく文具を買っていた百円ショップのコモ・バリエも六月末に閉店し、しばらく東高円寺方面は足が遠のいていたが、また散歩するようになった。

 コロナ禍中、野方によく行くようになった。家から野方までの間はまだまだ知らない道がある。
 西武新宿線沿線に行くと町の雰囲気が変わる。野方の南口から北口の商店街に行こうとすると、よく踏切に引っかかるのだが、それすら新鮮におもえる。

 東京に三十年以上暮らしていても訪れたことのない町は無数にある。一、二度しか行ったことのない町の記憶も薄れてきている。

 四十代後半から自分の郷里(三重県)の郷土史や郷土文学の本を集めるようになったのだが、歴史や地理に関して知らないことばかりだ。十代のころの自分は「生活地帯」が狭く、地元に興味がなかったのだ。今は行きたい町だらけで時間が足りない。