《うーん、人生とはひと言でいうなら「偶然」だな。だいたい、人類が発生したのも偶然らしいんだがね》(山田風太郎著『コレデオシマイ。』講談社+α文庫)
この数日、電車に乗るときはずっと山田風太郎のエッセイを読んでいる。
『山田風太郎エッセイ集成 わが推理小説零年』(日下三蔵編、筑摩書房)刊行以来、『風眼抄』(中公文庫)、『半身棺桶』(徳間文庫)、『死言状』(角川文庫、小学館文庫)、『あと千回の晩飯』(朝日文庫)、『風太郎の死ぬ話』(角川春樹事務所)を立て続けに読んだ。
『コレデオシマイ。』は、晩年のインタビュー集のひとつ(『いまわの際に言うべき一大事はなし。』、『ぜんぶ余禄』角川春樹事務所など)。山田風太郎、聞き手、森まゆみ『風々院風々風々居士』(ちくま文庫)、関川夏央著『戦中派天才老人・山田風太郎』(ちくま文庫)という聞き書の名著もある。
『別冊新評 山田風太郎の世界 〈全特集〉』や『BRUTUS図書館 風太郎千年史』(マガジンハウス)、世田谷文学館で開催された『追悼 山田風太郎展』のカタログもファンであれば、入手しておきたい文献だろう。
ちなみに、わたしは色川武大(阿佐田哲也)の文章がきっかけで、山田風太郎のエッセイを読むようになった。
《現在までのところ、山田さんにとって傍系の仕事の観があるエッセイの類は、完全に愛読者であって、真似しようにも真似のできない面白さである》(「山田風太郎さん」/『阿佐田哲也の怪しい交遊録』集英社文庫)
編集者時代の色川武大は、山田風太郎の担当者だったこともある。
山田風太郎の原稿をもらいに行くとき、電車にのらず、汗だくになって走ってとりにいった。
《たしか、ある夏の早朝であった。夜なかにタバコが切れて、私はタバコ屋がひらくのを待ちかねて、そのころ住んでいた世田谷三軒茶屋の町へ出ていった。すると、まだあまり人通りのない大通りを、交叉点の方から、頭から湯気をたてて、息せき切って走って来る青年がある。だれかと見ると、色川氏ではないか。——》(「阿佐田哲也と私」/『山田風太郎エッセイ集成 わが推理小説零年』)
タクシーにも電車にも乗らず、走ってきた色川武大に「なぜそんなことをしたんだ」と山田風太郎は訊いた。
《電車になど乗ってゆくと、原稿は出来ていないかも知れない。もし二本の足で走ってゆくと、天がその至誠を哀れんで、原稿が出来ているにちがいない、と考えたからだという》(同文)
さらっと書いているが、異様なエピソードである。
走って原稿をとりにいく話は、さきほど引用した『阿佐田哲也の怪しい交遊録』の「山田風太郎さん」にも出てくる。
《山田さんは選ばれた人間、私はただの男、そう思っていたのである。
それでも、たとえただの男でも、私は私で会社のために努力しなければいけない。山田さんに関係のない形で、なにか努めてみたい。
私はヘンなことを考えた。電車に乗って、ただ漫然と楽チンにお宅へ伺って原稿を貰うというのでは、私の努めるところがない。そんなことだから原稿が貰えないのだ。
私は出版社を出ると、走って、山田さんの家まで行った。神田から、三軒茶屋の先まで、汗みどろで走ったのである》(「山田風太郎さん」)
しかも行きだけでなく、帰りも色川武大は走った。読めば読むほど、変だ。
編集者は作家の原稿をとらなければならない。中には苦しまぎれに威嚇の手でとろうとする編集者もいる。
山田風太郎は、走る色川武大のことをこんなふうに分析している。
《思うに色川さんは、いかに苦しがってもそういう手には出られない編集者であったろう。攻撃的でない性格の人は、しばしば自虐的になる。この暁の疾走はその現れにちがいなかった》(「阿佐田哲也と私」)
色川武大に「走る少年」(『虫喰仙次』福武文庫)という短篇がある。
《楽あれば苦——。本当にそうだと思う。ぼくのように、半人前の人間はそれでなくたってわるいことばかり起きがちなのに、楽など味わったら、次は苦にぶつかるにきまっている》
学校にバスで通う少年は、こんな楽をするから、不幸になるのだという妄想にとらわれる。だから学校まで走っていく。当然、遅刻する。怒られる。
《楽あれば苦、というのが怖い。どんなことがあっても、うかうかと楽をしてはいけない。ぼくはいつも、苦の中にいて、次は楽だと思いたい》
色川武大が「楽あれば苦」といった理屈(理論?)をこねあげていることにたいして、山田風太郎が「攻撃的でない性格の人は、しばしば自虐的になる」と説明しているのは、なんともおかしい。
そんな山田風太郎のことを色川武大は「人間のかぐろい部分を、観賞的に捕まえられる人である」とも述べている。
2007/08/27
阿波踊り
高円寺は阿波踊り中(八月二十五日、二十六日)、今住んでいる住居の周辺は踊り人のたまり場になっていて、さらに通行規制やらなんやらで、駅から家に帰り着くまでがたいへんだ。
高円寺駅のホームに着くと、あちこちに酔っ払い。道にも酔っ払い。大将(焼鳥屋)は大繁盛だった。
昨日は、昼すぎ高円寺西部古書会館の古書展(二日目)に行く。
小沢信男『昭和十一年』(三省堂)、野原一夫『編集者三十年』(サンケイ出版)、草森紳一『旅嫌い』(マルジュ社)など、いい本がいろいろ手頃な値段で買えた。お祭りムードにのせられ、花田憲子の『あんたが一番! 負けん気女房の奮戦記』(カッパホームズ)も買ってしまう。沢田亜矢子が推薦文を書いていたり、子どものころの花田勝、光司の写真があったり、ある種のマニアにとっては、しびれる本かもしれない。
夕方、あずま通りの台湾料理で持ち帰りの焼きそばを買う。この時期、阿波踊り以外に、近所のあずま通りでは大道芸フェスティバルもやっている。ベリーダンス(?)の踊り子の集団とすれちがい、たいまつでジャグリングをしている人をながめ、占い師の前を通りすぎるうちに、シラフで歩いているのがバカバカしくなり、屋台で酒を買って、のみながら歩く。
部屋に帰るもずっと太鼓の音、やっとなー、やっとなーの声。毎年のことなのでもう慣れた。
ウイスキーを飲みながら、新刊の山田風太郎の『わが推理小説零年』(日下三蔵編、筑摩書房)を読む。単行本初収録のエッセイ集である。山田風太郎もウイスキー党だった。
この本には「阿佐田哲也と私」「雀聖枯野抄」「親切過労死」と色川武大のことを書いたエッセイも三本ある。
色川武大が山田風太郎について書いた文章と山田風太郎が色川武大について書いた文章をすりあわせたら、そのズレがたのしめそうだ。
眠くなってきたので今日は寝ることにする。
高円寺駅のホームに着くと、あちこちに酔っ払い。道にも酔っ払い。大将(焼鳥屋)は大繁盛だった。
昨日は、昼すぎ高円寺西部古書会館の古書展(二日目)に行く。
小沢信男『昭和十一年』(三省堂)、野原一夫『編集者三十年』(サンケイ出版)、草森紳一『旅嫌い』(マルジュ社)など、いい本がいろいろ手頃な値段で買えた。お祭りムードにのせられ、花田憲子の『あんたが一番! 負けん気女房の奮戦記』(カッパホームズ)も買ってしまう。沢田亜矢子が推薦文を書いていたり、子どものころの花田勝、光司の写真があったり、ある種のマニアにとっては、しびれる本かもしれない。
夕方、あずま通りの台湾料理で持ち帰りの焼きそばを買う。この時期、阿波踊り以外に、近所のあずま通りでは大道芸フェスティバルもやっている。ベリーダンス(?)の踊り子の集団とすれちがい、たいまつでジャグリングをしている人をながめ、占い師の前を通りすぎるうちに、シラフで歩いているのがバカバカしくなり、屋台で酒を買って、のみながら歩く。
部屋に帰るもずっと太鼓の音、やっとなー、やっとなーの声。毎年のことなのでもう慣れた。
ウイスキーを飲みながら、新刊の山田風太郎の『わが推理小説零年』(日下三蔵編、筑摩書房)を読む。単行本初収録のエッセイ集である。山田風太郎もウイスキー党だった。
この本には「阿佐田哲也と私」「雀聖枯野抄」「親切過労死」と色川武大のことを書いたエッセイも三本ある。
色川武大が山田風太郎について書いた文章と山田風太郎が色川武大について書いた文章をすりあわせたら、そのズレがたのしめそうだ。
眠くなってきたので今日は寝ることにする。
2007/08/23
ちょっと告知
神保町から東京メトロで家に帰る途中、早稲田で下車する。どうでもいい話であるが、神保町から早稲田まで四駅(東京メトロ半蔵門線、東西線)、早稲田から高円寺までも四駅(東西線、JR総武線)なのだ。
東京メトロの東西線は、都内の古本屋(神保町、早稲田、中央線沿線の古本屋)をつなぐ日本屈指の「古本沿線」といえる。
早稲田で途中下車して、立石書店にて、九月一日(土)、二日(日)の第4回往来座「外市」のチラシを受けとる。
(くわしくは「わめぞblog」を参照してください)
今回の「外市」は、西荻窪から音羽館とにわとり文庫が参加するそうだ。
つまり「おに吉」(荻窪・西荻窪・吉祥寺)と「わめぞ」(早稲田・目白・雑司が谷)の夢の共演(?)というわけだ。
もちろん「文壇高円寺」も一箱で参加します。
音羽館は七年前の八月十八日にグランド・オープン。早いなあ。もっと前からあるような気がするのだが。
さっき古書現世の向井透史さんの昔の日記を読んでいたら、音羽館に「弟子入りしたい」と書いてあって笑った。
それはさておき、立石書店からふらふらと早稲田の古本街を歩いて、古書現世に行くと、リコシェの阿部さんがやってきて、「河内紀 音と映像の仕事」というチラシをもらう。
河内紀 音と映像と仕事
〜耳をすます、眼をこらす〜
場所 一角座
住所 台東区上野公園東京国立博物館敷地内
電話 03-3823-6757
座席数 150
9月4日(火)−9月9日(日)
『ツィゴイネルワイゼン』 (144分)
監督:鈴木清順 脚本:田中陽造 音楽:河内紀 製作:荒戸源次郎
出演:原田芳雄 大谷直子 大楠道代 藤田敏八
12:30/15:30/18:30
9/8(土) トークライブ 鈴木清順監督・河内紀
9月11日(火)−9月17日(月)
『陽炎座』 (140分)
監督:鈴木清順 脚本:田中陽造 音楽:河内紀 製作:荒戸源次郎
出演:松田優作 大楠道代 加賀まりこ 原田芳雄
12:30/15:30/18:30
9/15(土) トークライブ 菊地成孔・河内紀
9/16(日) トークライブ 上野昂志・河内紀
9月19日(水)−9月24日(月)
ドキュメンタリー「人間劇場」
『のんきに暮らして82年〜たぐちさんの一日〜』 (45分)
『八ヶ岳山麓 地下足袋をはいた詩人』 (45分)
演出:河内紀 製作:株式会社テレビ東京/テレコムスタッフ株式会社
14:30/16:30/18:30 二本立て上映
早稲田大学図書館・資料室で働き、古い演歌の研究を続けてきた田口親氏の日常の生活と、坦々と農業に取り組む詩人・伊藤哲郎氏を静謐に描いた、ドキュメンタリーの傑作。
9/22(土) トークライブ 坪内祐三・河内紀
9/23(日) トークライブ 秋山道男・南伸坊・河内紀
料金:前売鑑賞券 1000円
当日鑑賞券 1200円
リピーター 500円
前売鑑賞券は電子チケットぴあでも販売
……とのことです。
古書現世から高田馬場まで歩いている途中、視界がぼやけ、手がしびれてきたので、水分補給しないとまずいとおもい、喫茶店(エスペラント)で休憩。古書現世で買った石原慎太郎の『息子をサラリーマンにしない法』(光文社カッパホームズ)をぱらぱら読む。
気象予報士、政治家、芸術家……。いちおう有言実行。
ちなみにこの本、推薦文を黒川紀章が書いている。カバーデザインは宇野亜喜良。
そのあと、古本酒場コクテイルに「外市」と「河内紀さん」のチラシを置きにいって、家に帰ると、晶文社の宮里さんから電話があって、そのまま部屋飲み。下鴨納涼古本まつりの戦利品自慢などをして、いい気分になる。
『散歩の達人』9月号「荻窪 西荻窪」特集で「外市」メインゲストの音羽館、にわとり文庫も出ています。おすすめ。
東京メトロの東西線は、都内の古本屋(神保町、早稲田、中央線沿線の古本屋)をつなぐ日本屈指の「古本沿線」といえる。
早稲田で途中下車して、立石書店にて、九月一日(土)、二日(日)の第4回往来座「外市」のチラシを受けとる。
(くわしくは「わめぞblog」を参照してください)
今回の「外市」は、西荻窪から音羽館とにわとり文庫が参加するそうだ。
つまり「おに吉」(荻窪・西荻窪・吉祥寺)と「わめぞ」(早稲田・目白・雑司が谷)の夢の共演(?)というわけだ。
もちろん「文壇高円寺」も一箱で参加します。
音羽館は七年前の八月十八日にグランド・オープン。早いなあ。もっと前からあるような気がするのだが。
さっき古書現世の向井透史さんの昔の日記を読んでいたら、音羽館に「弟子入りしたい」と書いてあって笑った。
それはさておき、立石書店からふらふらと早稲田の古本街を歩いて、古書現世に行くと、リコシェの阿部さんがやってきて、「河内紀 音と映像の仕事」というチラシをもらう。
河内紀 音と映像と仕事
〜耳をすます、眼をこらす〜
場所 一角座
住所 台東区上野公園東京国立博物館敷地内
電話 03-3823-6757
座席数 150
9月4日(火)−9月9日(日)
『ツィゴイネルワイゼン』 (144分)
監督:鈴木清順 脚本:田中陽造 音楽:河内紀 製作:荒戸源次郎
出演:原田芳雄 大谷直子 大楠道代 藤田敏八
12:30/15:30/18:30
9/8(土) トークライブ 鈴木清順監督・河内紀
9月11日(火)−9月17日(月)
『陽炎座』 (140分)
監督:鈴木清順 脚本:田中陽造 音楽:河内紀 製作:荒戸源次郎
出演:松田優作 大楠道代 加賀まりこ 原田芳雄
12:30/15:30/18:30
9/15(土) トークライブ 菊地成孔・河内紀
9/16(日) トークライブ 上野昂志・河内紀
9月19日(水)−9月24日(月)
ドキュメンタリー「人間劇場」
『のんきに暮らして82年〜たぐちさんの一日〜』 (45分)
『八ヶ岳山麓 地下足袋をはいた詩人』 (45分)
演出:河内紀 製作:株式会社テレビ東京/テレコムスタッフ株式会社
14:30/16:30/18:30 二本立て上映
早稲田大学図書館・資料室で働き、古い演歌の研究を続けてきた田口親氏の日常の生活と、坦々と農業に取り組む詩人・伊藤哲郎氏を静謐に描いた、ドキュメンタリーの傑作。
9/22(土) トークライブ 坪内祐三・河内紀
9/23(日) トークライブ 秋山道男・南伸坊・河内紀
料金:前売鑑賞券 1000円
当日鑑賞券 1200円
リピーター 500円
前売鑑賞券は電子チケットぴあでも販売
……とのことです。
古書現世から高田馬場まで歩いている途中、視界がぼやけ、手がしびれてきたので、水分補給しないとまずいとおもい、喫茶店(エスペラント)で休憩。古書現世で買った石原慎太郎の『息子をサラリーマンにしない法』(光文社カッパホームズ)をぱらぱら読む。
気象予報士、政治家、芸術家……。いちおう有言実行。
ちなみにこの本、推薦文を黒川紀章が書いている。カバーデザインは宇野亜喜良。
そのあと、古本酒場コクテイルに「外市」と「河内紀さん」のチラシを置きにいって、家に帰ると、晶文社の宮里さんから電話があって、そのまま部屋飲み。下鴨納涼古本まつりの戦利品自慢などをして、いい気分になる。
『散歩の達人』9月号「荻窪 西荻窪」特集で「外市」メインゲストの音羽館、にわとり文庫も出ています。おすすめ。
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