2022/08/31

やり直し

 睡眠は充分とれていてるのだが、どうもやる気が出ない。家でごろごろしていたい欲が強すぎるのかもしれない。
 気晴らしにライトノベル原作のファンタジー漫画を何冊か読む(自由研究)。ここ数年、「やり直し」というジャンルが流行っている。「悪役令嬢」ものにその系譜が多い。

 ヒロイン(だいたい名家のお嬢様)は過去の悪逆非道な行為によって処刑される。あるいは婚約者や身内に裏切られ、命を落としそうになったり、国外に追放されたりする。気がつくと記憶を持ったまま子ども(〇歳から十五歳くらい)に戻っている。また何かのきっかけで転生前の記憶を思い出し、「ここはゲーム(小説、アニメ)の世界だ」と気づき、ゲームの世界で自分は悪役だったことを自覚する。そして破滅ルートに乗らないよう、稼ぐ手段を身につけたり、友好な人間関係を築こうとしたり、真面目に(約)二度目の人生を「やり直す」。

 近い将来、家の没落や身の破滅に追い込まれるかもしれない主人公がどうやってピンチを回避するか。
 あるヒロインは一度目の人生で婚約破棄された王子様ではなく、隣国の王子の元に行く。財政や教育など、領地改革に取り組み、家の没落を回避しようとするヒロインもいる。

 あのときこうしておけば、もっといい人生になったかもしれない。子どものころに戻って、正しい選択をする、人並外れた努力をする。そうすれば……。そういう作品が数え切れないくらい刊行されているのは、多くの人が今の人生や境遇にたいし、どうにか軌道修正したいと願っているからだろう。

 年をとればとるほど修正はむずかしくなる。「やり直し」系の主人公たちは未来を知っている。フィクションではなく、現実の世界であっても、未来予測は可能である。今の自分が望まない未来を変えることもできる……と考えながら、一日中だらだらしていた。

2022/08/29

余地

 夜、涼しくなってきたが、湿度がきつい。なんとなく「八月中に」とおもっていた仕事がたまっている。昼寝夜起生活を数日かけてどうにか調整する。

 金曜日、午前中、郵便局に行って、そのまま散歩していたら西部古書会館の赤いのぼりがちらっと見えた。高円寺の古書展はだいたい土日なので、平日開催の日はよく忘れてしまう。寄ってよかった。
『水木しげる 妖怪道五十三次』(YANOMAN、二〇〇四年)を買う。新装改訂版ではなく、元のほう。地方の文学館や記念館のパンフもいろいろあった。それにしても正岡子規関連のパンフレットは何種類(何十種類)あるのか。この日も二冊買った。
 書画、原稿、手紙、初版本。一読者としてはありがたいが、文学展のパンフレットを一冊作るのにどれだけの時間と労力がかかるか(とくに年譜を作るのは大変だ)。
 自分がふだん読まない作家、ジャンルでも文学展パンフは面白い。一人の作家が生きた時代や交遊がすこしでも知れたら、それでいい。

 午後、本の雑誌社へ。対談。いちおう話すことに困ったとき用のメモを作って鞄に入れていたのだが、一度も出さずにすんだ。夜、tvk(テレビ神奈川)でナイターのヤクルト対横浜戦を観る。今年のペナントレースは、中盤あたりまでヤクルトが首位を独走していたが、横浜が猛追——。すこし前に燕党の知り合いと「九七年のシーズンを思い出すねえ」といった話をした。「あのときは石井一久のノーヒットノーランで……」。

 何十年もファンをやっていると様々な記憶の堆積がある。野球もそうだし、本を読んだり、音楽を聴いたりしていても、気がつくと過去と対話している。その分、新しいこと、守備範囲外のことを受け容れる余地が減る。興味の持てないことに労力や時間をつかえなくなっている。そのあたりが五十代の課題か。むずかしい。

2022/08/25

掃除中

 七月半ばごろ、高円寺駅北口の広場に新型コロナの無料のPCR検査をするテントが設置され、南口の商店街の7DAYSの店舗にも検査場ができた。忘れてしまいそうな気がしたので書き残しておく。

 ここ数日、昼寝夜起の生活になり、夜の十時すぎくらいに、家から一、二キロ先まで散歩する。夜風が涼しく快適だが、陽にまったく当たらない日が続いたせいか、なんとなく気分がすぐれない。

 気がつくとコタツのまわりに本と資料の山ができている。身のまわりを整理整頓する時間がほしい。

 自由といえる状態は不安定と直結している。生活の基盤を築くことを優先し、それから自分のやりたいことに注力したほうがよかったのではないか。そんな考えがしょっちゅうよぎる。将来の不安と向き合うにも気力や体力がいる。不調時にそういうことを考えると、あまりよくない状態の延長線上の未来ばかり浮んでくる。

 そこそこ調子のいい時ですら何もかもうまくいっているわけではない。細かいミスはいっぱいしている。すぐ切り替え、気持を立て直し、なんとなく帳尻を合わせているにすぎない。

 その切り換え作業がすんなりできるかできないか——それも好不調のバロメーターかなと。