2015/06/24

『書生の処世』のこと

 新刊『書生の処世』(本の雑誌社)が出ました。『本の雑誌』の連載「活字に溺れる者」をまとめた本です。雑誌連載時は見開き二頁、単行本は四頁——『本の雑誌』二〇一一年一月号から二〇一四年十二月まで掲載された順番に並んでいます。担当編集者は『活字と自活』の宮里潤さん、デザインは戸塚泰雄(nu)さん、イラストは堀節子さんです。

 あいかわらず、本の話と身辺雑記なのですが、今回はこれまでの本よりも新刊本を多くとりあげています。書き下ろしのコラムも四本入っています。

 十代、二十代のころみたいに一冊の本を読んで自分の考え方が大きく変わる……というようなことは減った。『書生の処世』は、何もする気がしなくて、部屋でごろごろしながら、読んだ本の話が多い。でも三十代以降、暇つぶし、気休めの読書というものも奥が深いとおもうようになった。調子があまりよくないときに気楽にパラパラ読める本には、ずいぶん助けられてきた。『書生の処世』も誰かにとってのそういう本になってほしいとおもっています。

《まず、起きてすぐ流し台に行って給湯器の熱いお湯で両手の親指と人さし指のあいだをもみながら洗う。そうすると、からだがあたたまってきて、目がさめると教えてもらった》(トップストリートの病)

《金とひまの問題をずっと考え続けている。あまりにもそのことを考えすぎて、働いたり遊んだりする時間がなくなることもある》(ワーク・ライフ・アンバランス)

《我を忘れるくらい夢中になってはじめて面白さが味わえることはわかっていても、なかなかそういう状態にならない》(好奇心の持続について)

《何かをはじめたばかりのころは、やればやるほど、新しい技術が身についたり、記録が伸びたりする。ところが、半年か一年くらい経つと、練習や勉強の時間に比例して、上達の手ごたえをかんじることができなくなる。
 心理学用語では、そうした停滞期のことをプラトー現象(高原現象)という》(プラトーの本棚) 

 書き下ろしのコラムでは「ゼロからプラスではなく、マイナスからゼロへ。それがこの本のテーマのひとつではなかろうかと今、気づいた」と書いています。連載中は毎回読み切りのつもりで書いていたのですが、一冊にまとめることで見えてくるものがあります。自分で読み返していても新たな発見がいくつかありました。

 たぶん仕事で大成功したいとおもっている人には役に立つ本ではないなと……。