2018/04/29

仙台へ

 この十年くらい、「行く/行かない」で迷ったときは、なるべく「行く」を選択することを自分に課してきた。そうしないと、どんどん動けなくなりそうな気がしたからだ。理想をいえば、わざわざ課さなくても自然に動けるようになりたいわけだが、そう簡単に一足飛びにはいかない。

 二十八日(土)、Book! BooK! Sendai 10thは、土曜日の夕方から仕事が入っていたので行くかどうか迷った。迷った以上、行くことにした。

 前日の金曜日、仕事のあと、夜、新幹線で仙台へ。事前に駅前のカプセルホテルを予約した。仙台に着いたのは午後九時すぎだったが、駅前からアーケードまで人でいっぱいだった。とりあえず、宿にチェックインし、風呂に入る。それから仙台っ子ラーメン、コンビニで酒を購入し飲んで、すぐ寝た。
 カプセルホテルは二十数年ぶり。個室のドアの部分がロールカーテンなのはちょっと意外だった。すこし離れたところで寝ている人の鼾まで聞こえる。

 朝、仙台駅のエビアンでモーニング。そこからBook! Book! Miyagi@こみち市の会場に向かう。仙台駅の東口のほうには行ったことがなかった。駅から会場までのあいだ、お寺がいっぱいあった。「仙台」の地名のもとになったといわれる千躰仏を祀る千躰仏堂の前を通る。
 宮城、福島、秋田の店が出品——。『茂田井武の世界』(すばる書房)などを購入。
 新寺五丁目公園で本、遊歩道(新寺小路緑道)に生活雑貨や飲食の店が並ぶ「新寺こみち市」との合同イベント。おこわを食べる。
 午前十時開催で、会場にいたのは一時間ちょっとだったが、楽しかった。

 そのあと喫茶ホルンと書本&cafe magellanに。行かないと仙台に来た気がしない。いつもは徒歩だが、時間がないので地下鉄に乗る。ザ・ビートニクス(高橋幸宏、鈴木慶一)の『偉人の血』(パルコ出版)を買う。造本がすごい。最初から頁が折れているところがある。わけがわからない。八〇年代の妙な空気がつまった本。

 午後一時すぎの新幹線で東京に帰る。

2018/04/25

ペースを守る

 四月の今ごろ、連休前が毎年のようにバタバタする。気温の変化も激しく、体調を維持するのがむずかしい。冬のあいだ、体力の温存を心がけるようになって、毎年恒例の「四月バテ」をすこし回避できるようになった(まあ、バテるときはバテるのだが)。
 将棋の大山康晴は「勝負哲学」に関する本をたくさん出している。中でも「自分の力を長く維持する忍耐力」を重視していた。
 どうすれば、自分の力を長く保持できるか。

《棋士は、一気に突っ走る短距離型では大成しない。常にマイペースで、すこしずつ優位を積み上げていくマラソン型。花やかさより、着実に走りつづける人こそが、結局は勝負の岸に到達するものである》(大山康晴著『勝負のこころ』PHP文庫)

 マイペースを続ける秘訣については次のように語る。

《対局のとき、私はいつも自分のペースでやりたいと思っている。百の力があれば、いつでも百の力が出せるようにしたい。それを百十とかそれ以上出そうとすると、いつも無理をしなければならず、親方の一時力に終わってしまう》

《数字で示すと、百の力を百十になっていたとする。そうした無理をした状態で、長い時間、しかも緻密なことを考える対局では、肉体も精神もオーバーヒートしてしまう。
 そうした場合、過熱しないように、初めから体力を落として調子を整えることを工夫する》

 わたしは困ったことがあると、色川武大の『うらおもて人生録』(新潮文庫)を読むのだが、この本にも「マラソンのように——の章」がある。

《マラソンを見てごらん。あれは、他の選手を追い抜いて一着になる競争じゃないよ。自分のペースを守って走り抜くものなんだよ。(中略)人を追い抜くのじゃない。自分より前を走っていた人たちが落伍していって、自分の着順があがっていくんだ。問題は、自分のペースで完走できるかどうか、だ》

 色川武大はペースを守って完走するには「何よりもまず、身体を楽にすることだね」とアドバイスし、別の章では「プロはフォームの世界。つまり持続を軸にする方式なんだね」とも述べている。

 日々の仕事や生活は持久走型でいくべし。

2018/04/19

古本屋台

 Q.B.B.(作・久住昌之/画・久住卓也)の『古本屋台』(集英社)を読む。『彷書月刊』『小説すばる』と十年くらいにわたって連載していた漫画がようやくまとまった。連載中もだいたい読んでいたのだが、ずいぶん印象に変わっている。
 焼酎一杯だけ飲ませる古本を売る屋台。主人公の帽子の男や常連客(岡崎武志さんやわたしも登場)が本をつまみに会話を楽しむ。古本酒場コクテイルのシーンもよく出てきます。漫画の中に流れている時間が心地いい。ほんとうにこんな屋台があったら通いたい。

 先日、集英社のPR誌『青春と読書』(五月号)で『古本屋台』刊行記念の対談の構成をしています。構成の仕事は十八年ぶり(ちなみに、二十代の十年間はずっと対談と座談会をまとめる仕事をしていた)。
 久住昌之さん、久住卓也さんとは飲み屋以外で会うことはほとんどなく、平日の昼間にシラフで喋ったのは、はじめてかもしれない。単行本化にあたって大幅に描き直しているという話を聞けた。終始、テンポのいい掛け合いでいい感じにまとまっているのではないかと……。

2018/04/17

標準

 不調の原因は心身の疲労と関係している。疲れさえ抜ければ、たいてい調子が戻る。
 あと季候(寒暖差)も関係ある。ただし気温の変化で体調を崩すときは、それ以前に疲れがたまっていることが多い。だから日中の温度差が激しい時期は無理をしないよう心がけている(季節に関係なく、そうしたいところだ)。

 炊事洗濯掃除して近所を散歩して本を読んで野球を見て酒を飲んでいたら、あっという間に一日が過ぎてしまう。わたしはそういう一日が好きなだろう。
 日中だらだら過ごして深夜から朝にかけて仕事をする。それ以外の時間はなるべく仕事のことを忘れる。中年以降、だんだんそういうふうになってきた。

 いわゆる「標準」とされる生き方や働き方がある。わたしも努力すれば「標準」に近づくことは可能だろう。しかしものすごく努力をしないと「標準」に近づけないというのであれば、その労力を自己流のやり方に費やしたほうがいいとおもう。

 自由業は収入が不安定だし、大変なことはいろいろあるが「標準」を無視できることはありがたい。その分「標準」に適応できれば、やらなくてもいい努力や工夫は欠かせない。
 自分に合った時間割を作り、それだけは何が何でも実行する。もちろん、それだって簡単ではない。怠けようとおもえばいくらでも理由をこしらえることができる。昨日今日と予定通りにいかなかった。たぶん疲れていたからだ。

2018/04/11

住まいのことでは

 二ヶ月くらいかけてコツコツやっていた仕事が一段落。新連載(掲載時期は未定)もぼちぼち。

 昨年、NEGIさんにすすめられて読んだ池辺葵の『プリンセスメゾン』(小学館)は新しい巻が出るたびに最初から読み返している。居酒屋で働く女の子(両親を早く亡くしている)がマンションを買う話。現在五巻まで。素晴らしい漫画だ。

『ウィッチンケア』で家の話を書いたのもこの漫画の影響かもしれない(書いているときは忘れていた)。
 一生賃貸のつもりだったが、二年前に父が亡くなって、保証人をどうすればいいのか——という問題に直面している。保証人を代行してくれる会社があることは知っているが、金もかかるし、面倒くさい。連帯保証人という制度は世の中から消えてほしいもののひとつだ。

 永井龍男の「そばやまで」(『青梅雨』新潮文庫)を再読する。「住まいのことでは、一時思い屈した」という書き出しを山口瞳が絶讃している。

2018/04/02

歩きながらはじまること

 Pippoさん経由で奈良在住の詩人西尾勝彦著『歩きながらはじまること』(七月堂)を受け取る。

 西尾さんは一九七二年京都生まれ。二〇〇七年、三十代半ばに水井宏さんの詩の通信ワークショップに参加し、詩を書くようになり、最近は「のほほん社」という出版活動もはじめた——ということをPippoさんの解説とプロフィールで知る。

 わたしは作者と作品を切り離して詩を読むのが得意ではないのだが、『歩きながらはじまること』は、西尾さんのことをまったく知らずに読んでも、一目で気にいった自信がある。詩の中に流れている人柄や思想に共感できた。詩の題から、辻まことや串田孫一が好きなのかなとおもった。

《朝の光を
 独り楽しむ

 猫の寝言を
 独り楽しむ

 庭の仕事を
 独り楽しむ

 団栗並べて
 独り楽しむ(後略)》(「ひとりたのしむ」)

……この詩は「独り楽しむ」という言葉をくりかえしながら、なんてことのない一日を讃美している。

 もっとも気にいったのが「待つ」という詩——。

《自分を
 待つことができるようになった
 以前なら
 未熟な自分に
 焦りがあった
 できないことは悔しく
 隠したいことだった
 でも
 ようやく
 今日できないことは明日
 今年できないことは来年
 それも無理なら十年後の
 自分を待とうと
 思えるようになった(後略)》

 この続きもいいのですが、気になる人は手にとって読んでください。
 その後「古書ますく堂の、なまけもの日記」の「ポエカフェ西尾勝彦」篇(二〇一四年二月二十三日)で、西尾さんが大阪で二十六歳で国語科の教員、二十九歳で奈良に転居したことなどを知る。
 ますく堂さん絶讃の「言の葉」「そぼく」という詩も『歩きながらはじめること』に収録されている。このふたつの詩も素晴らしかった。

 長く大切に読みたい詩集だ。