2010/10/28

神田古本まつりとえいでんまつり

 気温が急に下がって睡眠時間がズレまくる。午後三時に起き、夕方頭がぼーっとしたまま打ち合わせのため神保町。神田古本まつりの初日、三省堂書店の周辺だけすこし見る。人が多すぎて棚の前に行けないくらいの盛況だった。

 ここ数日、寝ている時間以外、ほとんど読書と執筆という日が続いていて、急に大量の古本を見て混乱する。神保町でパラフィンのかかっている古本見ると、なんとなく高そうな気がするのだが、値段を見るとけっこう安くてあれっと肩透かし。でもそんなに読みたい本ではなかったので棚に戻す。

 ふだんあまり見かけないちくま文庫や講談社文芸文庫の品切本がこれでもかというくらい並んでいた。新刊、辰巳ヨシヒロ著『劇画暮らし』(本の雑誌社)と伊吹隼人著『「トキワ荘」無頼派 漫画家・森安なおや伝』(社会評論社)と立て続けに気になる本が刊行。すこし前に出た藤子不二雄Ⓐの『PARマンの情熱的な日々 漫画家人生途中下車編』(ジャンプスクエア)もおすすめ。

 十月三十日(土)の京都の叡山電車の一箱古本市、前日から京都に泊るか当日始発の新幹線で向かうか思案中。

「一箱古本市 in えいでんまつり」

 2005年に東京の不忍ブックストリートで始まり、いまや全国各地で催されている一箱古本市を、京都市左京区を走る叡山電車の「鉄道の日」協賛イベント「第6回えいでんまつり」の催しのひとつとして開催いたします。なお、当日はちせさんによるチャイや自家製ジャムの販売も。 乗って・撮って・読んで・食べて・聴いてのえいでんまつりで、たのしい秋のひとときをお過ごしください。

【日時】平成22年10月30日(土) 10:00-16:00(雨天決行)

【会場】叡山電車・修学院車庫(修学院駅下車すぐ)

【主催】ガケ書房 【共催】ちせ 【協賛】叡山電鉄 【協力】恵文社一乗寺店・古書善行堂・ぱんとたまねぎ・hellbent lab

 当日はコトバヨネットさんによる一箱古本市、初(?)のインターネット中継も予定。また叡山電車さんのほうでも(こちらもおそらく初)、 イベント列車の運転席からの眺めをユーストリームで放映されるそうです。 お楽しみに!

2010/10/22

保留

——図式にとらわれすぎると、日常の感覚を損なう。

 あいかわらずのしりきれトンボ。あと一言二言と付け加えようとして、そのままにしてしまった。

 世代論は多くの例外を含むが、世の中を考えるひとつのモノサシとしてそう簡単に否定はできないところもある。生まれ育った時代の影響も無視できない。

 時代経験は各人各様という事実もある。  

 若いころは自分たちの世代は被害者だという意識がある。しかし被害者だとおもっていた世代が、いつの間にか加害者になる。よくある話だ。

 おそらく四十歳前後の自分と同世代の人が〈バブル世代〉といわれたときの戸惑いもそこにある。バブルの恩恵に受けたのは上の世代だ。だから「こっちはそんなにいいおもいしてねえよ」と反論したくなる。ところが、これまで世を拗ねる立場だったのに、いつの間にか、若い世代からすれば、ずっと恵まれてきた身勝手な中年とおもわれるようになった。「自分はちがう」という言い分は通用しない。

 どの世代だって、そのときどきは自分のことでいっぱいいっぱいで、次の世代のことは考えられない。社会に出てからの時間のすごし方で、同じ世代で考え方もちがってくる。

 ひさしぶりに学生時代の友人に会うと、別人のように性格が変わっていたり、子どものころ見たテレビのことくらいしか共通の話題がなかったり、むしろ同世代は同世代でどんどんバラけている気もする。

 やっぱりまとまらん。

 もうすこし時間をかけて考えてみたい。今はその時間がない。

2010/10/20

近況と雑感

 西荻窪(北口)のなずな屋(紙モノ・古本の店)で「文壇高円寺の古本棚」コーナーをつくってもらいました。
 今は棚一段分ですが、すこしずつ本を補充していく予定です。

 昨日も一昨日も仕事、古本屋、飲み屋をぐるぐるぐるぐる。そのサイクルから喫茶店がぬけている。
 古本屋と飲み屋と喫茶店に行くことが仕事の活力になっている。今は三分の二の活力で仕事をしているわけだ。

 不調の原因がわかった。

 山田正紀、恩田陸著『読書会』(徳間文庫)を読んで、読書欲を刺激されまくる。SFやファンタジー小説は守備範囲外。読まずぎらいはいかんとおもいしらされた。
『ゲド戦記』はそんな話だったのか。目からウロコ。半村良や小松左京は、高校生くらいのときに読んでいたのだが、それっきり。
 この本の中に出てくる萩尾望都の『バルバラ異界』(全四巻・小学館)を書店に買いに走ったし、さらに『銀の三角』や『マージナル』も読み返した。

 ささま書店で福田恆存著『インテリかたぎ』(池田書店)を買った。あまり見かけない本かもしれない。収録されているエッセイは他の本に入っているものも多いのだが、手にとった瞬間、「ほしい」とおもってしまった。ビニカバ付の美本。

《ひとびとは世代の對立を圖式的に設定することによつて、じつはその圖式につごうのいゝように現實を眺めてゐる。が、現實は世代を考慮しない。なまの現實のすがたは、このような圖式をぶちこはすことによつて、はじめてぼくたちのまへに立ち現れるであらう》

 誰も生まれてくる時と場所は選べない。誰もが選べないことを公平と考えるか不公平と考えるかは意見のわかれるところだろう。
 わたしは〈バブル世代〉といわれる世代である。〈就職氷河期世代〉からすれば、恵まれた世代だとおもう。でも個人の実感はそうではない。

 わたしも団塊の世代に反発をいだいていた。上がつかえていると愚痴もこぼした。
 早とちりだったと反省している。

 世代間の格差は、拡大よりも縮小されたほうがいいとおもうが、制度や何やらかんやらが改善されるには時間がかかる。
 その日その日を楽しく生きる知恵や工夫も必要だ。図式にとらわれすぎると、日常の感覚を損なう。

2010/10/14

ちょっと京都に

 日曜日、京都のメリーゴーランドの古本市。
 メリーゴーランドの古本市も三年目。店に向かう途中、古本のはいった袋をもった若い人四、五人すれちがう。会場も盛況。

 出町柳に出て古書善行堂。棚の変化早いなあ。前に見たときとまったくちがっていた。
『昔日の客』も売れている。新幹線の中で山本善行さんの『古本のことしか頭になかった』を読みかえしていたのだけど、電車で読むのにピッタリの本だとおもった。
 この本の中で“古本”として書かれていた本が、続々と“新刊”になっている。

 そのあと竹久野生展を見にいく。会場は善行堂のすぐそばだったのだが、道に迷い、三十分くらい遅れる。竹久野生さんの実父は辻まこと、ということは辻潤の孫。竹久夢二の二男、不二彦の養女でもある。コロンビアに四十年以上在住。
 ざらっとした青や緑の色の絵、化石が描かれている絵、詩をモチーフにした絵。うまく説明できないが、なんとなく、人類が生まれる前からある壁画みたいなかんじがした。不思議な絵だった。

 メキシコ料理屋で二次会。午後十一時すぎ、扉野良人さんとまほろばに飲みに行く。

 翌日は、扉野さんと四天王寺の古本まつりに行く。口笛文庫さんにはじめてお会いする。わめぞの外市のとき、いい本が並んでいた。
心斎橋のブックオフ、梅田のかっぱ横丁をかけあしでまわって、家に帰る。

 ここ数日、毎日十時間以上熟睡。
 よく寝たり、よく夢を見たりする時期は、なんらかの変化の前ぶれだという話がある。
 今月から『ちくま』は隔月から毎月連載になる。
 この連載が一段落したら、すこしのんびりできそう。

2010/10/08

メリーゴーランド古本市

 まもなくメリーゴーランド京都で「第3回 小さな古本市」があります。わたしも参加します。
 今年はギャラリーで「あべ弘士展」も開催されるそうです。

日時 10月10日(日)・11日(祝月)
   10:00〜19:00

会場 メリーゴーランド京都の前のフロアー

出展者
・あべ弘士
・伊藤まさこ
・三谷龍二
・海文堂古書部
・古本オコリオヤジ
・子子子屋本店
・古書コショコショ
・moshi moshi
・トンカ書店
・とらんぷ堂書店
・貸本喫茶ちょうちょぼっこ
・文壇高円寺古書部
・GALLERY GALLERY
・りいぶるとふん
・増田喜昭
・メリーゴーランド京都

◎子どもの本専門店 メリーゴーランド京都
〒600-8018
京都市下京区河原町通四条下ル市之町251-2 寿ビル5F
TEL&FAX075-352-5408
http://www.merry-go-round.co.jp/kyoto.html

2010/10/07

仙台・山形

 日曜日、仙台のbook cafe火星の庭で佐伯一麦さんの読書会。その前にマゼランに寄り、古本を買い、アイスコーヒーを飲む。

 読書会では魯迅の「藤野先生」「孔乙己」「故郷」を読んだ。
 昔、読んだときとずいぶん印象がちがった。短い作品なのだが、構成がものすごく巧み。「孔乙己」は、飲み屋に来るだめなかんじの酔っぱらいの話である。つきはなしたミもフタもない描写が凄い(「故郷」にもいえる)。
「孔乙己」について、佐伯さんは十歳の子供の目から飲み屋の様子を描くことで、酔っぱらいにたいする容赦なさ、残酷さが出ているといい、わざと真相をぼかし、噂の積み重ねで人物像を作っているのだが、それが逆に現実感を出している……というようなことをもっと丁寧な言い方で解説してくれた。

「故郷」のときは、佐伯さんが魯迅の出身地を訪れたときの写真のスライド上映があったり、参加者それぞれの感想を聞いたり、飲んだり食ったり、楽しい時間だった。

 そのあともずっと文学談義が続き、結局、午前一時すぎまで店で飲んだ。

 翌日、小雨。昼すぎ、ふらっとひとりで松島に行ってみる。松島は十七、八年ぶりか。前に行ったときは、気仙沼に行く途中に降りて、海岸を歩いただけ。フェリー乗り場付近のうなぎ屋、寿司屋、定食屋の客引に圧倒される。
 松島から船で塩竈行きの遊覧船に乗る。小さな島(岩)を通るたびに、録音されたアナウンスが流れる。はじめはそのたびに景色を眺めたが、だんだん飽きてきて、ずっと文庫本を読んでいるうちに塩竈に着いてしまった。わたしは観光が苦手なのかもしれない。

 仙台に戻り、夜、国分町の飲み屋へ。カウンターと小さな座敷がある。刺身、芋の煮物が絶品。居心地もいい。文学好きの店主と論創社や国書刊行会の本のことなどを話した。そのあと中華料理屋へ。また午前一時すぎまで飲む。

 火曜日、麻六時くらいに目が覚めてしまい、前野家の食卓に書き置きを残して、駅に向かう。一ノ関に行くか、山形に行くか。先に来た電車に乗ることにした。

 山形行が先に来た。JR仙山線で一時間二十分で山形駅へ。町中をぶらぶらしているうちに、レンタサイクルを見つけ、霞城公園のちかくの香澄堂書店で大量に本を購入する。

 駅前のコインロッカーに荷物をあずけ、馬見ヶ崎川沿いを自転車で走る。駅に戻る途中、たまたま通りかかった蔵オビハチという喫茶店に寄った。

 山形からまた仙台に戻る。新幹線で帰る。

2010/10/01

昔日の客

 先週の日曜日、西荻ブックーマークのときに関口良雄著『昔日の客』の復刻版(夏葉社)を買った。

 店主の関口良雄は、正宗白鳥をこよなく愛し、尾崎一雄、上林暁、木山捷平と交遊があった。
 わたしが一生手放したくないとおもっている作家ばかりだ。

『昔日の客』(三茶書房)は、古書価が一万円以上していた。稀少価値だけでなく、関口良雄の文章と人柄の魅力も大きいとおもう。

 商売を度外視するくらい文学にほれこんでいた古本屋だった。
 わたしもそうありたい。そういうところがないとおもしろくない。おもしろいことばかりやっていては生活できない。おもしろくないことばかりやっていては生きている甲斐がない。

 夏葉社のSさんにも会った。若い編集者だと聞いていたのだが、まだ三十代前半だとはおもわなかった。一冊目がマラマッドの『レンブラントの帽子』、二冊目が『昔日の客』の復刊である。すごいとしかいいようがない。
 ほんとうに自分が売りたいとおもう本を作る。出版人の理想だろう。きれいごとかもしれないけど、そうした理想を追求する姿勢は、かならず読者にも伝わる……はずだ。

 昨日、東京堂書店に行ったら、平台のいちばん角に夏葉社版の『昔日の客』が平積になっていた。すでに京都の古書善行堂では四十七冊(※1)売れたとのこと。

《私は店を閉めたあとの、電灯を消した暗い土間の椅子に座り、商売ものの古本がぎっしりとつまった棚をながめるのが好きである。
 昼間見るのとは別の感じで様々な意匠の本が目に映る。古い本には、作者の命と共に、その本の生まれた時代の感情といったものがこもっているように思われる》(「古本」/『昔日の客』)

(※1)さらに売れている。