Pippoさん経由で奈良在住の詩人西尾勝彦著『歩きながらはじまること』(七月堂)を受け取る。
西尾さんは一九七二年京都生まれ。二〇〇七年、三十代半ばに水井宏さんの詩の通信ワークショップに参加し、詩を書くようになり、最近は「のほほん社」という出版活動もはじめた——ということをPippoさんの解説とプロフィールで知る。
わたしは作者と作品を切り離して詩を読むのが得意ではないのだが、『歩きながらはじまること』は、西尾さんのことをまったく知らずに読んでも、一目で気にいった自信がある。詩の中に流れている人柄や思想に共感できた。詩の題から、辻まことや串田孫一が好きなのかなとおもった。
《朝の光を
独り楽しむ
猫の寝言を
独り楽しむ
庭の仕事を
独り楽しむ
団栗並べて
独り楽しむ(後略)》(「ひとりたのしむ」)
……この詩は「独り楽しむ」という言葉をくりかえしながら、なんてことのない一日を讃美している。
もっとも気にいったのが「待つ」という詩——。
《自分を
待つことができるようになった
以前なら
未熟な自分に
焦りがあった
できないことは悔しく
隠したいことだった
でも
ようやく
今日できないことは明日
今年できないことは来年
それも無理なら十年後の
自分を待とうと
思えるようになった(後略)》
この続きもいいのですが、気になる人は手にとって読んでください。
その後「古書ますく堂の、なまけもの日記」の「ポエカフェ西尾勝彦」篇(二〇一四年二月二十三日)で、西尾さんが大阪で二十六歳で国語科の教員、二十九歳で奈良に転居したことなどを知る。
ますく堂さん絶讃の「言の葉」「そぼく」という詩も『歩きながらはじめること』に収録されている。このふたつの詩も素晴らしかった。
長く大切に読みたい詩集だ。