本でも映画でも音楽でもそうなのだろうが、読む力、見る力、聴く力があればあるほど、たのしめるという作品がある。逆に、読む力や見る力や聴く力がわざわいして愉しめないこともある。
わたしはあまり映画を見ない。映画を見ることにも慣れていない。だからその年の大ヒット映画を(テレビとかで)見ると、たいていはおもしろい。お金のかかっている映画を見ると、得した気分になる。
すると、年数百本映画を観ている知り合いは怪訝な顔をして「あの映画は、○○と比べたら、ぜんぜんだめだね」といったりする。正直、あまりいい気持はしない。
しかしこれが本になると、わたしも同じことをおもう。書評の仕事をしている関係で年に百冊くらい新刊本は読む。さらに趣味で古本を同じかそれ以上読む。「泣いた、感動した」といわれるような作品を読むたびに「え? どこが?」とおもう。
かつて自分が読んだ名作と比べ、「ぜんぜんだめ」とおもってしまうのだ。
(……以下、『古本暮らし』晶文社所収)