東日本大震災と原子力発電所の事故から一年十一ヶ月ちょっと。
わたしの日常は元に戻った。もしかしたら、すこし退行してしまったかもしれない。
古本読んで、酒飲んで、ぐだぐだ、だらだらすごしている。この間、震災や原発に関する本はいろいろ読んだ。でも読めば読むほど、考えることが増え、混乱した。
原発事故の半年後くらいまでは、食の安全うんぬんについても神経質になったけど、プータローの延長のような生活をしている身としては、日々の食事にありつけるだけでもありがたいというおもいもあり、だんだんどうでもよくなってしまった。非科学だろうが何だろうが、うまいとおもいながら、楽しく食うのがいちばんいい——わたし自身はそういう考えに落ち着いた。
なげやりな結論だという自覚はある。
五十嵐泰正+「安全安心の柏産柏消」円卓会議著『みんなで決めた「安心」のかたち ポスト3・11の「地産地消」をさがした柏の一年』(亜紀書房)という本を柳瀬徹さんが作った。
柳瀬さんはまだ書店員だったころからの知り合いで、その後、いくつかの出版社を転々とし、今はフリーランスになっている。いい本、作ったなあ。
原発事故の後、おそらく多くの人がかんじたであろう「不安」にたいし、誠実に解決策を見つけようとした本ではないかとおもう。
あらゆる健康情報にもいえることだが、万人にとっての「正しさ」はありえない。
「安全(安心)かどうか」にたいして答えを出す。どちらの答えにも賛成する人、反対する人がいて、どちらの立場を選んでも、別の陣営から批判される……インターネットの掲示板では、そんな光景をずいぶん見かけた。中には穏当な意見もあったが、気持が荒むようなやりとりに埋もれがちだ。
『みんなで決めた「安心」のかたち』を読むと、メンバーが重視したのは「さまざまな立場の人たちが『折り合える』ことであった」という。
《もちろん私たち円卓会議は、地域の生産者を無条件に「買って応援」しようという運動ではない。原発事故直後から続く行政や生産者団体による情緒的な「買って応援」キャンペーンが、不信と反感を招いてしまったという批判的認識を円卓会議では共有している。だからこそ円卓会議は、消費者が安心して地元野菜を消費する前提となる、科学的で納得感ある地元野菜の安全性の測定方法の確立に、苦心して取り組んできた》
地元で暮らしていくために、どうすれば、食にたいする放射能汚染の不安を解消することができるか。専門家のあいだでも意見が分かれる問題にたいし、農家、流通、飲食店、消費者といった立場のちがいをこえ、手間暇惜しまず、知恵を出し合い、着地点を探す。
同時に、その方針や基準を押し付けることを慎重に避けてようとしている。
新鮮でおいしい野菜を作り、地産地消を根づかせようとしてきた人たちが、どうしてこんな苦労を強いられなければならないのか。そのことを考えると、やりきれない気持にもなる。