菊池寛は編集者は三十五歳(三十歳だったかも?)で定年といっていた。きびしい意見である。
自分をかえりみると、新しいものにたいする反射神経は鈍ってきたなとおもったのは三十歳前後だった。
CDの新譜を買う枚数があきらかに減った。もともと中古レコードが好きだったということを差し引いても、新しいものがわからなくなった。お金をつかわなくなった。
自分の年齢プラスマイナス十歳くらいの考え方、感覚はなんとかわかる。ただプラスマイナス二十歳がわかる人というのはすくない。本人はわかっているつもりでも、ズレている。
三十五歳は、四十五歳と二十五歳の感覚はなんとなくわかる。でも十八歳、二十歳の感覚となると、ちょっとあやしくなってくる。
年輩の人で話しかけやすい人と話しかけにくい人がいる。自分の父親と同じくらいの年齢なのに、いっしょになってふざけたり、冗談がいえたりする人がいて、そういう人はちょっとすごいなあとおもう。貫録はまったくないんだけど、特殊な能力だとおもう。
(……以下、『古本暮らし』晶文社所収)