2007/08/18

ボナンザと竜王

 仕事に追われつつ、新刊の保木邦仁、渡辺明著『ボナンザVS将棋脳』(角川oneテーマ21)を熟読する。ボナンザというのはトッププロと対戦した最強将棋ソフトだ。

 渡辺明さんは二十三歳のタイトル棋士。先日、行われた対局では、渡辺竜王は、ボナンザに勝った。それでもボナンザはかなり善戦した。
 渡辺さんは「コンピュータに負ける気がしない」という。しかし、チェスのコンピュータはすでにプロに勝っている。将棋のコンピュータでも、一手三十秒くらいの早指し戦だったら、プロ棋士でもかなり苦戦するらしい。詰め将棋は、もはや人間はコンピュータにかなわない。
 十年くらい前のインタビュー(アンケートだったかな)で、羽生善治さんは、コンピュータがプロ棋士に勝つのは「二〇一五年」と答えていた。もっと早くその日がくるかもしれない。

 ボナンザの開発者の保木邦仁さんは、一九七五年生まれで、物理化学の研究者で将棋はアマ五級だという。ほんとうにスケールの大きな思考をする人だとおもった。才気あふれる人というのは、こういう人なのだろう。文章や発言の端々から自分のやっている研究にたいする熱意が伝わってくる。
 
《何に役立つかを考えているだけでは、科学や技術の進歩はない。
 何に役立つかが簡単にわかるということは、すでにそれは既知の知識であり、予想の範囲内の技術であることを意味している。むしろ、実用的な意味では何に役立つかがわからないような知識を吸収して、それを使って時間をかけて新しい何かを生み出すことにこそ、大きな価値があると思う。(中略)多くの発見は、偶然によって加速されている。ただそのときに、その偶然の現象を理解できる知識を有していなければ、その事実は発見されずに見過ごされてしまう》

 何の役に立つのかわからない知識。
 一見、無駄におもえるようなこと。
 日頃からそういうことの必要を自分にいい聞かせておかないと、ついつい楽で効率のよさそうなものを求めてしまう。
 読書にしても、今やっている仕事に関係するような本ばかり読んでいると、だんだん自分の考えが窮屈になってくる。

 将棋の場合だと、手を深く読んだり、たくさん読む力に関しては、二十代がピークだといわれている。
 渡辺さんは、「コンピュータのようにしらみつぶしに、読める範囲にあるすべての手を読む、ということは人間にはできない。だから無駄な手を読まず、どう捨てるかが大切になってくる。読めないから読み筋を絞る、全部を読もうとすることは非効率的で、無駄な読みをいかに早く捨てるかが勝敗を分けるカギになる」という。

 無駄な手を読まずにすませるためにはどうすればいいのか。渡辺さんは「将棋の勉強はまず量が大切」だという。

《質が変化する前には量の積み重ねが必ずある》

 渡辺さん、まだ二十三歳なんだよなあ。すごすぎる。
 そのころのわたしは週休五日のアルバイト暮らしでした。

(付記)
 朝五時すぎ、散歩したらひさしぶりに外が涼しかった。