2008/09/04

まだまだ大丈夫

 病みあがりでとどこおった仕事をひとつずつ片づけ、ようやく一段落。
 昨晩、古本酒場コクテイルで、Sさんという学生ライター時代の先輩と飲んだ。会うのは五年ぶりくらい。ふたり目の子どもが生まれたという。
 Sさんは大学卒業後、食品メーカーに就職した。ちょっと意外だった。
 Sさんは地に足ついた仕事のほうが自分に向いているとおもったそうだ。
 当時のわたしは雑務をまったくやらない人間だったから、Sさんにはずいぶん迷惑をかけた。責任感の強いSさんは、いつも裏方に徹していた。
 ずっとそのことがひっかかっていた。
 昨晩そのことをいうと「いや、俺はそういう仕事がもともと好きだったんだよ」といわれた。

 十九、二十歳の学生が集まって編集室で寝袋持参で何泊もしながら雑誌を作る。毎日お祭りさわぎだった。
 Sさんといっしょに仕事をしたのは一年ちょっとだったけど、わけがわからないくらい楽しかった。あれはやっぱりなんというか、青春というやつだったんだろう。恥もいっぱいかいた。
 あんなにも密度の濃い時間というのは、その後、味わっていない気がする。

 この先出版界はきびしいという話をよく聞く。バブル崩壊後、雑誌の廃刊休刊が相次いだ。わたしも仕事がなくなったのだが、もともとそんなに仕事をしていなかったので、貧乏ガマン大会に参加しているつもりでやりすごした。アルバイトしながら原稿を書く生活には慣れている。

 神保町に行く。いつも人がいっぱいだ。こんなに本が好きな人がいるのだから、まだまだ大丈夫だという気もする。例外でもいいのだ。本が好きで好きでたまらない人間がいるかぎり、どういう形にせよ、本を作る人間、本を売る人間は必要とされるとおもう。
 Sさんはしきりに「ものづくりは楽しいよ」といっていた。
 ほんとうに必要とされるものを作る。
 それしかない。