2009/04/18

イギリスのコラム

 岩波文庫の新刊を発売後すぐ買うことはあまりない。
 たいてい刊行して数ヶ月後、あるいは古本屋で見かけるまでガマンする。
 ただし、この四月に発売された行方昭夫編訳『たいした問題じゃないが イギリス・コラム傑作選』(岩波文庫)は例外である。新刊案内で知って、刊行を待ちわびていた。

 コラム傑作選とあるが、内容はエッセイ文学といわれるものだ。
 わたしはアメリカのアンディ・ルーニー、ビル・ブライソンのコラムが好きで、ひまさえあれば、再読しているのだけど、その源流は、このイギリス・コラム選におさめられているような文章にある気がした。
 もっともさかのぼることもできるかもしれないが、よくわからない。
 巻末の訳者解説に、チャールズ・ラム、ウィリアム・ハズリット、リー・ハントの名が出ている。
 ラム、ハズリットは、翻訳が出ているが、リー・ハントは知らない。

『たいした問題じゃないが』には、ガードナー、ルーカス、リンド、ミルンの四作家のコラムがおさめられている。
 最初の「配達されなかった手紙」(ガードナー)でいきなりまいった。

 ポケットの中から、二週間前に書き、投函しそこねた大事な手紙が出てくる。
 自分が手紙を出し忘れていることを知らずに、相手からの返事を待っていた。そんなうっかりミス、小さな誤解から、人間関係がちょっとギクシャクしてしまうという話。
 誰にでも身におぼえのあることではないかとおもう。
 そこからの教訓のひきだし方も絶妙で、読後、いろいろなことを考えさせられる。

 ガードナーの「怠惰について」の書き出しを紹介したい。

《自分が怠惰な人間なのではないかという、嬉しくない疑惑を以前から抱いていた。一人でそう思っていた》

 読みたくなりませんか?

 リンドの「時間厳守は悪風だ」には、次のような辛辣(?)な一節があった。

《時間厳守の人は、時間を守らぬ者が経験することについて、まったく想像できないと思う。どんなに体力を消耗させ、どんなに胸をどきどきさせるか、見当もつかないだろう。遅れるのが好きで遅れているのだと考えているようだ》

 ほかにも「冬に書かれた朝寝論」など、リンドのエッセイは、タイトルからしてすばらしい。

 日本でいえば、遠藤周作、安岡章太郎、吉行淳之介らの「軽エッセイ」も同じ路線かもしれない。『ぐうたら生活入門』『なまけものの思想』『軽薄のすすめ』といったタイトルも、ガードナーやリンドの精神に通じる。

 それをコラムというかエッセイというか随筆というか身辺雑記というかは、たいした問題じゃない。