すこし前にラジオのナイターで解説の山本昌がおもしろいことをいっていた。
調子がよくてストレートのキレがいいときは変化球が曲らない。回が進み、疲れて腕のふりがすこし鈍くなると変化球が曲り出す。
うろおぼえだが、だいたいそんなかんじの話だった。
別の中継ぎ投手は、肩が軽くて調子がいいときはコントロールが乱れる。やや不調なくらいのほうが、その分、慎重になって狙ったところにボールが行くというような話をしていたこともある。
わたしもちょっと疲れているときのほうが、本が読んだり文章を書いたりするにはいいとおもっている。もちろん、疲れすぎるのはだめだ。そうなると、何もできない。熟睡して頭も気分もすっきりしていると、本を読む気になれない。ずっと座って仕事をするのがつらくなる。四十代後半にもなると、やや不調の日ばっかりだ(そうじゃない人もいるかもしれないが)。油断すると、やや不調ですら維持できなくなる。
山本昌の解説では、自分の現役時代をふりかえり、シーズンを通してほとんど万全な状態はなく、普通かやや不調かのどちらかだったとも語っていた。
逆にいうと、やや不調なときでも「わるいなりにまとめる」力があったからこそ、現役最年長投手になることができたともいえる。
ある海外の作家は、調子よくすらすら文章が走り出すとわざといったん筆を置くと語っていた。その話を聞いたときは「なんてもったいない」とおもったが、今はその理由がすこしわかる。
調子よく書きすぎてしまうと次の日に反動がくる。すこし余力を残す。その匙かげんがむずかしいわけだが。