2017/01/21

ダメをみがく

 十年以上前、新聞の夕刊で文庫本を紹介する欄の仕事をしていて(今はやっていない)、以来、文庫の新刊のチェックをするのが習慣になっている。
 各出版社の文庫で読みたいとおもうのは月に一冊あるかないか。ところが、ときどき何冊か読みたい本、あるいは単行本ですでに読んでいるけど、文庫で買い直したい本が数冊同時に出ることがある。

 今月の集英社文庫もそう。橘玲の『バカが多いのには理由がある』、サミュエル・ハンチントン著『分断されるアメリカ』(鈴木主税訳)、津村記久子、深澤真紀著『ダメをみがく “女子”の呪いを解く方法』と、ジャンルはバラバラだけど、気になる本が三冊あった。

『ダメをみがく “女子”の呪いを解く方法』の単行本は紀伊国屋書店で刊行。タイトルに“女子”とあるが、男女問わず、仕事や人間関係の悩みを抱えている人には、よく効く本だろう。

 わたしは就職した経験はないが、仕事をしていて困ったときのことをおもいかえすと、私生活を干渉されたり、性格や身なりにたいして、あれこれ文句をいわれたりするのが、つらかった。こちらも仕事はまったくできないから、怒られるのはしかたがない。でも仕事がうまくいかない理由は、経験不足や伝達ミスによるものが大半なのに、なぜか「古本を読むな」とか「ミニコミに原稿を書くな」といった説教になる。理不尽。

『ダメを磨く “女子”の呪いを解く方法』では、津村さんが最初に就職した会社で、通勤中に音楽を聴いていることを注意されたという話をしている。会社帰りに音楽を聴くのはいいらしい。よくわからない基準だ。

 話は戻るが、「仕事がまったくできなかった」と書いたけど、今は「自分に合った仕事のやり方ではなかった」だけかもしれないとおもっている。
 同じ仕事でも文句をいわれながら嫌々やるのとリラックスしながら自分のペースでやるのとではまったくちがう。

 津村さんと深澤さんの対談は、おもいあたることがたくさんあった。
 仕事をする過程でつかわなくてもすむ「感情」を浪費させられる職場がある。何をするにも気をつかったり、常に尊敬(しているふり)を強いる人がいたり、仕事以外のことで消耗する。
 そうした状況を改善する、あるいは克服するという方法もあるとおもうが、「逃げる」のもあり。ありというか、正解の可能性が高い。

 また「『メンタルから変えていく!』じゃなく、ペンを替える」もいい話だ。

《津村 根本から変える必要は全然なくて、ちょっとしたことを変えて三日もちました、次の変化で七日もちました……って、そういう小さな工夫をずっと続けながらちょっとずつしのいでったらいいと思うんですよね。
 深澤 だいたい朝起きて一日終わるのを繰り返すだけでも大変ですよ。まず一日をごまかし、一週間をごまかし、一か月をごまかして生きていくだけで十分》

 メンタルもそうだし、生き方はそう簡単には変えられない。それより日々の「小さな工夫」の積み重ねのほうが有効というのはそのとおりだとおもった。

《深澤 自分自身がマシにならなくてもいいですよね。環境がよくなったとか、小さな「マシ」づくりを繰り返すことで、結果的に自分の本体がマシになることもある、っていうぐらいでいい》

 これは至言。