二十年、三十年と古本屋通いをしていると、たとえ未読であっても、作家の名前くらいは何度も目にしているから知っている……つもりになっていることがよくある。
でもたまになんで知らなかったのかとおもう作家が出てくる。まったく知らなかった昔の作家に興味を持ち、インターネットで検索してみたら、おもっていたよりも著作がいっぱいあって驚く。
わたしは三好十郎を知らなかった。自分のアンテナに引っかからなかった。名前を見ても、何を書いた人なのかさっぱりわからない。
青空文庫に作品がいろいろ入っていたので、その中から「歩くこと」というエッセイを読んだ。
長年、自分が散歩をしたり、旅行をしたりしているときに意識していたことが書いてある。嬉しくなった。もちろん、エッセイを一、二篇読んだくらいでは三好十郎がどんな人物なのかはわからない。だけど、「歩くこと」の一篇で好きになった。一行一行、すべての言葉に魅了された。
たぶん、自分とは性格や資質はちがうような気がするが、「考えようとしていること」が重なっている。そんなふうおもえる人はひさしぶりだ。
最初、「歩くこと」はキンドルで読んだのだが、本の形で読みたいとおもい、『三好十郎の仕事』(全三巻+別巻、學藝書林)を日本の古本屋で注文した。