昨日、梅崎春生著『怠惰の美徳』(中公文庫)が発売になりました。詩(二篇)とエッセイと短篇を収録しています。
梅崎本が手元に一冊しかなかったので、神保町に行き、東京堂書店と三省堂書店で一冊ずつ買う。東京堂の文庫のランキングに『吉行淳之介ベスト・エッセイ』(ちくま文庫)が入っていた。
吉行淳之介も梅崎春生もずっと読み続けている作家なのだが、ふたりとも病弱だったという共通点がある。わたしは元気なときよりも弱っているときに読める本が好きなので、そういう本が作りたかった。
《寒くなると、蒲団が恋しくなる。一旦蒲団に入れば、そこから出るのがいやになる》(寝ぐせ)
《その頃、一日一日を、僕はやっと生きていた。夢遊病者のように一日中ぼんやり動いていた》(一時期)
いずれも『怠惰の美徳』に収録した梅崎春生の短篇の書き出し。何をするのも億劫なときに読みたくなる。梅崎作品は最初の数行がやる気がなくて素晴らしい。寝ころんでだらだら読んでいたくなる。読み終わったあと、ちょっとだけ元気になる。
今回の文庫には一九四二年に梅崎春生が丹尾鷹一名義で発表した「防波堤」という幻の短篇も収録した。十年ほど前に扉野良人さんが[書評]のメルマガの連載「全著解読 梅崎春生」でこの作品のことを紹介している。『梅崎春生作品集』(沖積舎)の三巻に入っているが、全集には未収録だった。