2006/11/27

明日のために

 雨の日でも換気する。一日一回は。
 それから布団を押入にしまう。掃除機をかける。
 そして好きな音楽をかけて、コーヒーを飲む。
 その日一日の気分をよくしようとおもったら、そんなちょっとしたことがけっこう大事だったりする。

 しかし、いま二日酔いで頭が痛くて何もできないでいる。
 ゴミも洗濯物もたまっている。

 いやな気分を切り替えたいとおもう。そのとき、楽しいことをおもいだすようにしている。
 友人の部屋で鍋をやったり、カレーを食ったりしたこと。そのときは楽しさの渦中にいて、そのありがたみに気がつかない。
 でもたのしいよなあ、鍋。なんでたのしいんだろう。
 別に鍋でなくてもなんでもいい。部屋で柿の種をつまみにただひたすら酒を飲むだけでもいい。
 学生時代にそうやって部屋飲みしていて、夜中、みんながおなかがすいたとき、さっと台所に立って、塩焼きそばを作ってくれた先輩がいた。
 あれはうまかった。十七、八年前の話だけど、いまでもときどきおもいだす。

 このあいだ「テレビで見てたら、おいしそうとおもったから、グリーンカレーを作ったの。普通のカレーもあるよ」とクーラーバックにいれて、Hさんが持ってきた。
 仲間数人と近所の居酒屋で焼酎のボトル(一升瓶)を飲んで、そのあとコンビニで電子レンジでチンするごはんを買って、わたしの家にきて、みんなで食った。
 カレーを食いながら、「そうなんだよ、これが幸せってものなんだよ」とおもった。
 楽しい生活にはそんなにお金はかからない。飲みたいだけ飲んで、眠くなったら寝て、帰りたくなったら帰る。

 居酒屋でわれわれはいちばんうるさい客になる。店にとっては、迷惑な客かもしれないが、誰かが、いつの間にか店主と仲良くなっていて、たいていのことは大目にみてもらえるようになる。
 わたしは、そういう場所でいまだにおっかなびっくりだ。でも彼らは「平気、平気」といいながら、どんどん飲んで、どんどんさわいで、酔いつぶれる。

 昔はよく近所の公園で中央線界隈のバンドマンたちとよく飲んだ。飲んでいる最中、誰かがケンカをはじめても、まったく気にせず、わいわい騒ぎ続けている。酒の席での失言や醜態なんて、ぜんぶ水に流してくれる。
 別にやさしいわけではない。怒るときは怒る。ときどきまわりがびっくりするくらい怒る。でもすぐ許し、すぐ忘れる。

 そんなふうに、わたしには見えているのだが、ほんとうのところはわからない。案外、ひきずったり、おちこんだりしているのかもしれない。それでもたいてい次に会ったときには、なにごともなかったかのように笑っている。

 彼らと飲むようになって、仕事がいちばんではない人生があることも知った。
 十年前はこんなかんじで大丈夫なのかと心配していた。食っていけるのか?

 家でカレーをいっしょに食った寿司屋の娘なのに刺身が食えないMさんは、金がたまると会社をぱっとやめて一年くらい海外に行ってしまう。そんなことをくりかえしている。仕事は遊ぶための金を稼ぐ手段だと割り切っているのかもしれない。
 仕事? 帰ってきたら、また探せばいいじゃん。
 とても真似できない。

 老後? わからない。でも楽しいことはわかる。それは楽しい人たちといっしょにいることだ。