『私の読書遍歴』(かのう書房、一九八三年刊)をぱらぱらと読む。週刊読書人の連載をまとめたもので、作家、詩人、芸術家ほか八十三人の読書に関するエッセイがおさめられている。
その中の三木卓の「文学の領土へ導かる」という文章を読んで、考えさせられた。
《本を読むということが、読んだ人間に残す痕跡というものは当人の自由にならない。自分が必要だと思ったり、読むべきであると思って一生けんめい読んだ本が、その人間に対して必ずしも力を持つとは限らないと思う。(中略)反対に、何気なく手にとって読んでしまったもの、あるいは、好きだ、ということに気づかないでいて、しかし無意識にひきつけられて読んでしまったものが、あとで意味を持って自分自身に働きかけていることがあり、しかもそれにずっとあとになってから気づくということもある》
(……以下、『閑な読書人』晶文社所収)