2012/02/11

三十五歳を過ぎてから

《三十五歳を過ぎてから、私は深い関心を持てぬ事柄を、努力して理解し吸収しようと試みることは一切やらぬことにした。結局、そういう努力は無駄骨で、頭の中に知識として残ったとしても、細胞の中を素通りしてどんどん躯の外へ出てしまうことが分かったからである。短い人生である。あまり無駄なことをしている暇はない》(「些細なこと」/吉行淳之介著『なんのせいか』大光社)

 あるとき、吉行淳之介はコミュニストの旧友に「君はもっと世界における日本の位置というようなことに考えをめぐらさなければ、文学者としてダメである」とエドガー・スノーと何人かの著作をすすめられる。
 でも読まなかった。
 その理由を述べたのが上記の文章である。

(……以下、『閑な読書人』晶文社所収)