2013/06/13

未来の働き方

 ちきりん著『未来の働き方を考えよう』(文藝春秋)を読む。

 著者は証券会社、外資系企業に勤めていた覆面ブロガー。わたしは一冊目の『ゆるく考えよう 人生を100倍ラクにする思考法』(イースト・プレス)から愛読していて、今回の新刊も楽しみにしていた。

 定年延長、年金の受給開始年齢の引き上げ、終身雇用の崩壊、低成長時代、グローバリゼーション……。
 この先、今まで通りの働き方を続けていけるのか。あるいはもっと楽しい働き方はないのか。
 激動の時代を生き残るために、今まで以上の努力をしなければならないと煽るのではなく、そういう時代だからこそ、働き方も多様化したほうがいいのではないか——過激に要約すると、ひとつの会社で定年まで働くという生き方には未来がないよ(そこまではいってない)——という本である。

 これから社会に出る人、あるいは十年、二十年と仕事をしてきた人にも、深く考えさせられる問いかけがたくさんあるとおもう。

 中でも第四章の「ふたつの人生を生きる」は、本書の白眉だろう。この章には「ゆるやかな引退」「プチ引退」というキーワードが出てくる。わたしは二十代のころから「隠居」が最大の関心事なので、「プチ引退」について論じているところはすごくおもしろかった。
 引退といっても、仕事を完全にやめるわけではない。十年なり二十年なり働いて、その経験をもとに、仕事を選び直す。

《就職活動の際、自分のやりたいことが見つからずに悩む若者が多いようですが、「職業人生は二回ある」という前提に立ち、最初はとりあえず目の前にある仕事をしてみて、その間に、自分が本当にやりたいことを見極め、後半人生はそれを中心に設計すればいいのだと考えれば、就活もすこしは気楽になるはずです》

 人生の前半は「横並び人生」を選んだとしても、後半は「オリジナル人生」を選択したい。
 それは贅沢な望みなのか。
 出世や収入を増やすのが目標の人なら、競争の激しい場所で勝ち抜いていかないといけない。でも楽しく働きたいのであれば、なるべく競争相手のすくない場所でのんびりほそぼそとやっていく道を選ぶのもありだろう。

 またちきりんさんは「プチ引退」に関して次の四つのパターンを提案している。
・パターン1 半年だけ働く「シーズン引退」
・パターン2 週に2、3日だけ働く「ハーフ引退」
・パターン3 好きな仕事だけを引きうける「わがまま引退」
・パターン4 (共働きの場合)ひとり1年ずつ引退する「交代引退」

 それぞれのパターンを今の自分の現状に応じて、いろいろアレンジするのもおもしろい。
 暑いのが苦手な人は「夏だけ引退」、寒いのが苦手な人は「冬だけ引退」、あるいは花粉症の時期だけ「プチ引退」したいという人もいるかもしれない。

 自分の性格、体質、趣味、理想のライフスタイルに合った働き方を選ぶ。たぶん「プチ引退」の話もそうだが、ものすごく有能で、お金の余裕があるから、そういう生き方ができるというわけではない。
 ただし、規定のコースからズレた選択をする以上、多少の覚悟はいる。

 この先、働き方が多様化すれば、会社や社会だって変わらざるをえない。自分の時間がほとんどなくなるような働き方はいやだという人がもっと増えれば、もうすこしゆるやかな世の中になるだろう。そうなってほしい。なんとなく、そうなるような予感はする。