暮尾淳『詩集 地球の上で』(青娥書房)を読む。地球は「jidama」とルビがふられている。今年二月に出ていたのだが、最近、書店の詩のコーナーから遠ざかっていたせいか、気づかなかった。
ちどり足のような文章のリズムが心地よい。
《マレンコフが死んだと
居酒屋で聞いたが
スターリン時代の
ソビエトの首相ではなく
カラオケの世になっても
新宿の古いバーを回っていた
それが通称の
流しのギター弾きで
本名は誰も知らず
皺々の分厚い本の歌詞を
おれは老眼鏡で追いながら
「錆びたナイフ」だったろうか
その調子はずれの声に
ギターを合わせてくれたのは
三年前ではなかったか》(マレンコフ)
わたしもマレンコフを知っている。新宿で飲んでいれば、当然知っていてもおかしくない。「さっき飲んでた店にマレンコフが来たよ」とお客さんがいう。すると、しばらくして、ギターを持ったマレンコフが店に入ってくる。そんなことが何度か会った。
(……以下、『閑な読書人』晶文社所収)