ニック・ホーンビィ著『ハイ・フィデリティ』(森田義信訳、新潮文庫)は、何度となく読み返している本だが、通読ではなく、気がむいたとき、パラパラと数頁めくって、はっとする言葉に出くわす楽しみ方もできる小説だ。映画も好き。
《ブルース・スプリングスティーンの歌の世界では、とどまって腐っていくか、逃げだして燃えつきるかしかない。彼はソングライターなのだから、それでもいいだろう。選択肢は単純なほうが、歌は書きやすい。けれど誰も、逃げだしたうえで腐っていく可能性のことは歌にしてくれない》
人生の選択肢は二択ではない。二択の先にもさまざまな選択肢がある。
とはいえ、わたしはとどまって腐るより、逃げて腐るほうが百倍くらいマシかなとはおもっている。
親、親戚、古い知り合いに囲まれ、流動性が低い分、浮上の可能性すら夢見ることのできない場所にとどまるのはきつい。
逆に、困ったときに何かと支援してくれる人が身近にいる場合なら、とどまる選択もわるくないだろう。
不義理のツケはあるにせよ、親や親戚をふくめた人間関係に縛られずにすんだ恩恵のほうがはるかに大きかった。すくなくとも楽だった。