2019/07/01

終わらない歌

 五月下旬から予定外のことが重なり、終わりの見えない作業に追われている。
 諸事情により仕事部屋を引っ越すことになった。近所のスーパーに行くたびにペットボトルの段ボールを六、七枚もらう。ひたすら段ボールに本を詰める。箱がどんどん積み上がっていく。途中、古本屋に二度ほど本を売ったが、変化を感じられない。

 掃除も仕事もいっぺんにやろうとせず、何分の一かずつ分割して順番に片付けていくのがコツだ。とりあえず、五分の一くらいを目安にはじめる。五分の一まで進めば、残りは五分の四。それまでにかかった時間や労力を基準に、残りの作業がどのくらいかかるか、漠然と見えてくる。

 ここ数年、原稿を分割方式で書いている。十枚の原稿ならまず二枚書く。二枚書いたら休み、また続きを書く。細かく区切っていくほうが、時間の配分がしやすい。気持に余裕もできる。
 自己啓発書では、よく「小さな目標」を立てろというアドバイスがある。目標までの道のりをなるべく小さく刻み、階段のように一段ずつのぼるイメージといっていいだろう。

 困ったときは吉行淳之介の「草を引っ張ってみる」(『ずいひつ 樹に千びきの毛蟲』講談社ほか)という随筆の言葉をおもいだす。

《今日から十日のあいだに、短篇を一作書かなくてはいけない。五里霧中の状態で唸りはじめなくてはならないのだが、唸るにも体力がいる。本当に唸り声を上げることもしばしばある。こういうとき支えになるのは、これまでも何十回も切り抜けてきたことだから、たぶん今回もなんとかなるだろう、こういう考え方だけである》