書いては消してをくりかえしているうちに六月下旬、今年の夏至は二十一日だった。先週は掃除ばかりしていた。
今日発売の梅崎春生著『ボロ家の春秋』(中公文庫)の解説を書いた。直木賞受賞作、候補作を並べたオリジナル編集本である。解説にも書いたことだが、『ボロ家の春秋』と題した文庫は角川文庫、旺文社文庫、講談社文芸文庫から出ていて、その収録作はすべてちがう。
中公文庫版は野呂邦暢の巻末エッセイも入っている。野呂邦暢の筆名の「野呂」は「ボロ家の春秋」の主人公の名からとった。すこし前に出た『愛についてのデッサン 野呂邦暢作品集』(ちくま文庫)の解説で岡崎武志さんもそのことに触れている。
野呂邦暢と梅崎春生の本が同じ月に復刊されたのは偶然だが、なんとなく本と本が呼び合ったような気がしてならない。そういえば、梅崎春生をすすめてくれたのは岡崎さんである。一作の短篇を読んですぐ全集を買いに行った。三十歳前後だったか。かれこれ二十年くらい前の話なので記憶があやふやなのだけど、「梅崎春生は面白いよ。魚雷君、気にいるよ」といわれたような……。飲み屋だったか、電車の中だったか。
わたしは梅崎春生の戦争文学ではなく、日常文学から入った。日常の中にも文学がある。
ちなみに梅崎春生は新書(文芸新書)が多い作家でもある。三十代前半、梅崎春生の新書を揃えたくて毎日のように古本屋に通った。そのころ文芸の新書をずいぶん集めたが、その大半は売ってしまって手元にない。