先週、先々週と新刊本のチェックのため、新宿に行った。雨の日、新宿は地下の通路で移動できるので助かる。
元人気マンガ家T著『元人気マンガ家のマンション管理人の日常』(興陽館)は、百万部超の漫画誌に連載し、テレビドラマ化した作品を何作も持っていた漫画家の話。本業の仕事が途絶え、現在はマンション管理人をしながら、アルバイトを掛け持ちしている。おそらく「T」は姓ではなく、名だろう。『大東京ビンボー生活マニュアル』の人だとおもう。
《わたしは売れないマンガ家である。いや、あったというべきか》
Tさんには妻子がいる。管理人の仕事はゴミ出し、清掃作業、電灯の好感、破損部のチェック、植栽の水やり、落ち葉拾いなどがある。自宅(別のマンション)から電車や自転車で通う。
管理人の仕事の話も興味深いが、第6章の「わたしのマンガ家時代」が何かと身につまされる教訓でいっぱいだった。
Tさんは大学は法学部だったが、文学にのめりこみ、就職活動をしないまま卒業してしまう。その結果、アルバイト生活——ある日、定食屋で四コマのマンガ誌を読んでいたら、「新人募集」の告知が載っていた。Tさんは早速四コマを描いて、応募——郵送ではなく、編集部に直接持ち込む。すると「ウチの社風には合わないが他の出版社ならどこかで採用してもらえるかも……」といわれる。
そして別の出版社を訪れ、作品を見せると「次号に載せよう!」とデビューする。
とんとん拍子で漫画家になったように見えるが、何の経験も基礎もないままプロになってしまったTさんはすぐ行き詰まり、自信を失う。ところが「連載はいったんやめ、単発で短い好きなものを描くように言われ、大学時代のなんの変哲もない生活を描いたところ、これが意外に評価され」た。後にこの作品はTさんの代表作になった。
ヒット作を出してもTさんは自信が持てない。仕事が減ってもどうにかしようとしない。絵を描くのは好きだが、読んでもらいたいという情熱に欠ける——と自己分析している。
この第6章でTさんは残りの人生で何がしたいかについても書いている。おそらくTさんの年齢はわたしの一回りくらい上だ。今のわたしもそのことばかり考えている。