2023/09/09

歌枕

 街道を歩いたり、街道本を集めたりするようになって七年ちょっとになる。街道に関する文献を読み、地図を見ているうちに、いつの間にか和歌や古典にたいする苦手意識が薄れてきた。知りたいことがあると勉強がそんなに苦にならない。

 五年十年と何か一つのことを追いかけていると、最初のころには想像していなかったようなことに興味がわいてくる。靴や足の調子にも気をつかうようになった。そういう変化も楽しい。

 高校時代、古典の授業はずっと退屈だった。どこで何をしているのかもわからないまま読んでいたせいかもしれない。源平合戦の話にしても自分が歩いた場所が出てくるだけで急に面白くなる。

 街道沿いには歌碑や句碑が無数にある。すこしずつ見覚えのある地名や歌が増えていく。専門家からすれば初歩の初歩の知識であっても、それが古典を読む手掛かりになる。

 古典(紀行文)を読むさい、歴史や地理の感覚が大切だなと……。精密な地図がなかったころの旅はどんな感じだったのか。目印になるような場所、道標みたいなものは今とは比べものにならないくらい重要だったにちがいない。

 歌枕の土地は交通の要所が多いのも偶然ではない。