2024/01/12

礪波山まで

 誰に頼まれたわけではないが、謡曲「山姥」の百万山姥の歩みを調べている。
 百万山姥は京を出て、琵琶湖北岸から北陸道に向う途中、「愛発(あら地)」を通る。古代三関の愛発の関がどこにあるのか——古道に関する本を読んでも諸説いりみだれている。

 愛発関に限らず、和歌の歌枕の地でもそういうことがよくある。
 白河の関(福島県白河市)の場所は江戸後期(一八〇〇年ごろ)に特定されたが、それまでは不明だった。

 謡曲「山姥」に出てくる地名は「あら地」を経て「袖に露ちる玉江のはし」「かけてすゑある越路の旅」「こずゑ浪立しほこしの」「あたかの松の夕けぶり」「きえぬうき身のつみをきるみだのつるぎのとなみ山」と続く。

 わたしは「玉江のはし」がどこなのか見当もつかなかった(のでネットで検索した)。福井市花堂北に「玉江二の橋」という橋がある。JR北陸本線の越前花堂駅、福井鉄道福武線の花堂駅がもより駅で旧北陸道、狐川にかかる。玉江二の橋が謡曲「山姥」の「玉江のはし」と同じ場所かどうかはわからない。かつてこのあたりは湿地だったという説もあり、川の流れが変わることもある。
「こずゑ浪立しほこしの」の「しほこし」は「塩越(汐越)」で福井県あわら市——西行が歌を作っている。

《夜もすがら 嵐に波をはこばせて 月をたれたる 汐越の松》

 あわら市は福井県と石川県の県境の市。二〇〇四年三月に坂井郡芦原町、金津町が合併してあわら市になった。
 今年三月十六日、北陸新幹線芦原温泉駅が開業予定である。芦原温泉からは東尋坊も近い。

「あたかの松」の「安宅(石川県小松市)」もかつて関所があった地で「勧進帳」の舞台である。小松空港のすぐそばだ。

「となみ山」は「礪波山(富山県小矢部市)」で源平合戦で有名な倶利伽羅峠もある。倶利伽羅峠の戦い(一一八三年)は礪波(砺波)山の戦いともいう。

 謡曲「山姥」の信濃の善光寺行きの道のりは古代の関所、古戦場跡など史蹟めぐりもかねていたようだ。
 室町時代は関所が乱立していた時代だった。関所を通るたびに関銭(通行料)がかかる。

 大島延次郎著『関所 その歴史と実態』(人物往来社)には「文明十一年(一四七九)には、奈良から山城・近江をへて、美濃の明智に至る間に二十九関をもうけたと伝えている」とある。

 謡曲「山姥」の遊女が東山道(後の中山道)ではなく、北陸道から善光寺に向ったのは当時乱立していた関所を避けようとしたのかもしれない。ちがうかもしれない。