高円寺の古本酒場コクテイルがあずま通り移転三周年のイベントとして、「絵本酒場 コクテイル」(「古本海ねこ」さんによる出張販売)を開催しています(二月十四日〜三月十四日まで)。
初日の夜、行ってみたら、なんと店の看板が出ていません。薄暗い店内をのぞくと、店長の狩野さんと海ねこ夫妻が三人で飲んでいました。しかもべろんべろんです。前日の搬入のときに飲んでしまい、準備が間に合わなかったそうです。間に合わなくてもなんとかするのではなく、間に合わないなら店を閉めてしまうというところがいかにもコクテイルらしいとおもいました。
わたしも酒宴にまぜてもらいました。
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絵本を見ていると、いろいろなことをおもいだす。小学校の学級文庫にあった絵本がある。なつかしい。
いろいろ棚をながめていると、常連のダンディさんがやってきた。
「あれ? 休みなの?」
またひとり仲間がくわわった。
飲みながら、つぎつぎと絵本をとりだし、子どものころに読んだ絵本の話などでもりあがる。
わたしは『せいめいのれきし』(バージニア・リー・バートン 文・え/いしいももこ やく、岩波書店)という絵本を買うことにした。
銀河系のはなし、太陽系のはなし、地球のはなし……ときて、地球上に生命が誕生し、現在にいたるまでの流れが描かれた絵本だ。子どものころ、何百回読んだかわからない。
《考えられないほど大昔、太陽がうまれました。
そしてこの太陽は、何億、何兆という星の集りである、銀河系とよばれる星雲のなかの、ひとつの星です、
そしてまた、この銀河系は、宇宙とよばれる、ひろいひろい空間を、おそろしい勢いで、ぐるぐるまわっている、何億、何兆もの星雲のひとつです。
わたしたちの太陽は、これらの星のなかで、一ばん大きくもなく、一ばん小さくもありませんが、わたしたちにとっては一ばんだいじだ——というわけは、太陽の光の熱がなかったら、この地球では、何もいきていけないのです》(プロローグ 1ば)
子どものころ、宇宙の大きさや宇宙が生まれてから人が生まれるまでの時間についておもいをはせると、得体のしれない不安をかんじた。宇宙の中で自分がちっぽけな存在であることはまぎれもない事実として認めざるをえない。億、兆という数字が頭にはいる。その数字の大きさをかんがえると、頭がはちきれそうになり、気がとおくなった。
この絵本を読んだときもそうだった。
自分がいて、家があり、町があり、市があり、県があり、日本があり、地球があり、太陽系があり、銀河系があり、宇宙がある。
地球がまわり、太陽系がまわり、銀河系もまわる。頭がくらくらする話である。
酒がまわってきて頭がくらくらしていると、またひとり常連の昼間は郵便局で働いているネット古書店のTさんがやってきた。
体調があまりよくないという。
「風邪のときは焼酎がいいよ」
「もう飲んできたよ」
生命が誕生し、気のとおくなるような時間を経て人類に進化し、人類は言葉をおぼえ、文字を作り、酒を作り、活版印刷を発明し、本や絵本を出版するようになりました。それから数々の古本屋さんができて、古本酒場コクテイルも開店しました。
《さあ、このあとは、あなたがたのおはなしです。その主人公はあなたがたです。ぶたいのよういは、できました。時は、いま。場所は、あなたのいるところ。
いますぎていく一秒一秒が、はてしない時のくさりの、新しいわです。
いきものの演ずる劇は、たえることなくつづき——いつも新しく、いつもうつりかわって、わたしたちをおどろかせます》(エピローグ)
進化した人類の一員であるはずのわれわれは頭足類のようにぐにゃぐにゃに酔っ払い、店長さんは三葉虫のように床で寝ています。ひょっとしたら、人はどんどん退化しているのかもしれません。
「絵本酒場 コクテイル」のぶたいのよういは、できましたか? 狩野さん。