めずらしく早起きし、午前中、北口のオリンピックに新しいFAXを買いに行く。上京してからもう六台目だ。だいたい三年で壊れる。
ずっと感熱紙用のFAXをつかっていた。しかし、今もう電気屋に行っても、感熱紙用のFAXは一機種しか売っていない。
普通紙用はインクリボンを買うのがめんどくさいし、A4しか受信できないし、気がすすまなかったのだが、この状況では選択の余地はない。普通紙用を買う。
説明書を読みながら、名前を登録したり、着信音を変更したり、いろいろやっているうちに午後になる。
子機でとった電話がまったく反応しない。前の機種は充電機からとりはずせば通話ができたのに、今度の機種は……ああ、そうか、そういう設定に切り替えられるのか。ややこしい。
気候の温暖がはげしいと、体調が崩れやすい。週末かるい風邪をひいた。
風邪は一日で治ったが、気力がもどらない。
こういうときは散歩だ、散歩が仕事だ。
高円寺の古本屋巡回コースを通って、南口のたけるのママの店でたぬきうどんを食い、青梅街道まで歩いて、それから丸ノ内線で南阿佐ケ谷駅まで行き、途中、衣料品店の奥にある喫茶店で休憩する。店で出来たばかりの永島慎二の『ある道化師の一日』(非売品・限定五百部)という本を見せてもらった。ものすごく凝った作りの本だった。
永島さんは、将棋駒も作っている。前に高円寺在住の森本レオさんに「ぼくは永島さんの駒もってるよ」と自慢された。永島さんの日記にも森本さんの名前がよく出てくる。
喫茶店を出て、南口の古本屋で店番をしていた助教授(愛称)とすこし喋る。
こんど、よるのひるねで一箱古本市(三月十八日・日曜日)をするそうだ。この日なんか予定がはいっていたような、いないような。忘れた。
阿佐ケ谷北口の古本屋にも寄ろうかとおもったが、疲れたので、ガード下を通って歩いて高円寺に向い、OKストアで買物してから家に帰る。
三、四キロは歩いたかもしれない。
ぐったりしたときによく聴くジョン・サイモンズ・アルバムを流しながら、部屋の掃除をして、京都の扉野さんに送ってもらったH・メルヴィルの『代書人バートルビー』(酒本雅之訳、国書刊行会)を読む。
書類の点検をお願いすると、バートルビーは「せずにすめばありがたいのですが」と答える。用事を頼むと、きまって明瞭な語調で「せずにすめばありがたいのですが」といい残して消えてしまう。なぜ断るのかと問いつめても、「せずにすめばありがたいのです」。
ある日、バートルビーは事務所に住み着いていることがわかる。出ていけといっても出ていかない。
「せずにすめばありがたいのです」
ヘンな小説だ。おもしろくてこわい。いや、これこそ小説だ。いわゆる奇妙な味の不思議な小説。浮世離れしたバートルビーにたいする「わたし」の心の動きがものすごく緻密に描かれていて、自分の中にもある困ったところ、あるいは困ったなあとおもわされたことをかんがえさせられてしまう。
正月に京都に行ったとき、海外には梅崎春生みたいな作家はいないのかという話をしていて、それで扉野さんが送ってくれたのかもしれない。そうだったような気がする。
ジョン・サイモンズ・アルバムを聴いていたら、ハース・マルティネスのアルバムがほしくなる。
ハース・マルティネスの紙ジャケCDが出ているのを知らなかった。音楽雑誌を買わなくなったので、どんどん情報に疎くなっている。
どこからともなく「仕事しろ」という声がする。
せずにすめばありがたいのですが。
今、酔っぱらっている。たぶん、あとで読み返したら、わけのわからない文章になっていそうだ。
いい気分なのでよしとする。