将棋が好きになったのは、ゲームのおもしろさもあるが、やっぱりプロ棋士の世界の厳しさに魅了されたのだとおもう。
日曜日の朝、週刊将棋を読んだあと、羽海野チカの『3月のライオン』(白泉社)の第一巻を読んだ。
この漫画、電車の中吊りでも大きく広告されていた。
羽海野チカは、美大生版のトキワ荘というべき『ハチミツとクローバー』(全十巻、集英社)が有名だけど、『3月のライオン』は、将棋漫画である。しかも将棋監修は先崎学八段。盤面解説をかねた「先崎学のライオン将棋コラム」が素晴らしく、故・村山聖とよく似た登場人物のことにふれた文章を読んでいて、泣きそうになった。
まだストーリーの全貌は見えないが、傑作になる予感がする。
人間には成長期というものがある。自分はもうそれが過ぎ去ってしまったとおもうと、ちょっと悲しい。十代二十代のころに、もっと自分を鍛えておきたかったな、と。そんなことを悔やんでも、今さらしかたがないのだが、やりきれない気持になる。
将棋の場合、ひたすら強くなればいい。勝てばいい。でも強さとは何かということになるとむずかしい。どんどん強くなる人がいれば、あるていど強くなるけど、途中で止まってしまう人がいる。いや、将棋にかぎらず、勝負事の世界では、よくある話だ。
『3月のライオン』の主人公の桐山零は、十七歳でプロの五段(C級一組)である。家族を交通事故でなくし、将棋だけが心の支えになっている。
主人公には師匠がいる。師匠の子どもたちもプロ棋士を目指していたが、零にあっさりと追い抜かれ、将棋の世界から遠ざかってゆく。師匠は「自分で自分を説得しながら進んで行ける人間でなければダメなんだ」とまったく手を差しのべようとしない。厳しい。でもそれはそうなのだ。そのとおりなのだ。
一巻の最後のあとがき漫画で作者はなぜこの題材(将棋)を選んだのかと質問されたのだが、うまく説明できないと書いている。
おそらく「才能とは何か」という問いがあり、その題材として将棋を選んだのではないかおもう。『ハチミツとクローバー』のときもその問いは常にあった。
プロ棋士になる。しかしその先のほうがずっと長い。そこで生き残っていくために必要なものは……。
こんなに続きが気になる漫画はひさしぶりだ。