2008/04/13

ボマルツォのどんぐり

 あるルートを通じて、ひと足先に扉野良人さんの初単行本『ボマルツォのどんぐり』(晶文社)の表紙と目次と初出一覧を見る。
 たぶん、いちばん古い原稿は、一九九四年十一月の『虚無思想研究』に発表した「辻潤と浅草」。二十三歳のときのエッセイである。

 前にも書いたかもしれないが、『思想の科学』の編集者だったN島さんに、「辻潤が好きな学生がいるんだよ」と紹介してもらったのが、扉野さんと知り合うきっかけだった。高円寺の「テル」で飲んだ。

 今回の本の話がはじまったころ、たまたま『虚無思想研究』のバックナンバーを読んでいたら、当時、扉野さんが本名で書いた「辻潤と浅草」を見つけ、「辻潤と浅草」を収録するよう催促した気がする。今、読んでも二十三歳とはおもえない文章だ。

 一冊の本の中に、十四年の歳月が流れている。大学卒業後、京都に帰って、お坊さんをやりながら、ずっと手間暇かけた文章を書き続けてきた。
 発表の場所のほとんどは同人誌だ。
 よかったなあ、とおもう。それにしても、内容が渋すぎるのではないか、ともおもう。

 目次をみると、いきなり永田助太郎、寺島珠雄、辻潤という名前が並んでいる。後半の作家の生地をめぐる紀行エッセイには、田中小実昌、田畑修一郎、加能作次郎、川崎長太郎の名前が出てくる。
 あと『sumus』創刊号の「ぼくは背広で旅をしない」は、素の扉野さんがよく出ている文章かもしれない。
 タイトルの「ボマルツォのどんぐり」の意味は、秘密にしておこう。

《旅するエッセイストは、
 ボマルツォに向かう。
 そこでどんぐりを拾う》

 帯にはそう書いてあった。
 もうすぐ書店に並びます。