2008/12/25

たぶん、いま必要なもの

 すこし前、なにかの拍子に『蟹工船』の話になって、その流れで、ある人が生活苦の若者について、金がないのに酒を飲んだりタバコを吸ったり缶コーヒーを飲んだりするのは理解できないといった。
 そうかなあ。金がないときは先のことなんか考えられない。先のことが考えられないときはどうしても目先の欲求を充たしたくなる。とにかく、不安定な生活の中では、今の喉のかわきや飢えや疲れや不安をとりのぞくことが何よりも優先事項になる。

 ただ、そうした境遇からどうすれば抜け出せばいいのかというのはむずかしい話だ。

 仕事を干されて、ぐだぐだしていたころ、生き方をあらためろとかちゃんとしろとかいわれるより、とりあえず、これやってみるかとなんてことのない雑用を頼まれることのほうがありがたかった。
 ハローワークで失業中の若者に説教した漫画好きの総理が顰蹙をかったのも、そういうことなのだろう。

 赤塚不二夫がマンガ家をやめようとしたとき、寺田ヒロオが黙って半年分くらいの生活費を貸したという話がある。そうあることではないから美談になっているわけだ。
 松本零士の『男おいどん』に出てくる下宿館のおばさんは、おいどんに(ときどき)メシを食わせ、「あんたはいつか大モノになるよ」と励まし続けた。
 説教あるいは親身な忠告ですら、時と場合によっては受けつけられないときがある。腹が減っているときには、一杯の粥に勝る言葉はない。
 風邪で寝込んでいるとき、自己管理が甘いという説教されても、今はちょっと休ませてくれという気持になる。

 また『まんが道』と『男おいどん』を読み返そうとおもう。