2012/03/07

本と酒 その三

……Theピーズの「3度目のキネマ」という曲がYouTubeにあがっていることを教えてもらい、ここ数日そればっかり聴いていた。

 ときどき自分の感情や思考と言葉がうまくつながならなくなる。
 文章を書く。現実を切り取る。不正確に切り取ると、世界がゆがみ、頭がおかしくなる。大げさにおもうかもしれないが、そういうことは一人の人間の身の上には起こりうることだ。

 そういうときはしばらく本を読むのもやめて、好きな音楽にひたる。
 Theピーズの曲は(自分にとって)特効薬になる。身につまされすぎることもあるのだが、十数年前、文章が書けなくなってしまったとき、『リハビリ中断』にはずいぶん世話になった。
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 一九九七年から九八年にかけて、定収入だったPR誌が月刊から隔月になり季刊になり休刊し、ほかの仕事も次々と失って、テープおこしのアルバイトでどうにか食いつないでいた。

 アパートの壁が薄く、夜中にCDを聴いていると隣の住民によく壁を蹴られた。とにかく防音のしっかりした部屋に引っ越したかった。
 夜、友人が遊びに来ると、高円寺南口のOKストアの向いの午前三時まで営業していたちびくろサンボという喫茶店によく行った。

 わたしは発表のあてがない二百枚くらいの原稿(私小説みたいなもの)を書いていたのだが、パソコンが壊れてしまった。
 修理に出したが、データはすべて消えてしまった。しばらく布団から起き上がる気力も出ないほど落ち込んだ。

 二カ月くらい文章が書けなくなった。

 あまりの虚脱ぶりを見かねた河田拓也さんが、線引き屋のホームページに「何でもいいから書いてよ」と原稿を依頼してくれた。
 それで「文壇高円寺」という連載をはじめることになった。

 当時も、私小説を読んだり、音楽を聴いたり、酒を飲んだりしながら、つながらなくなった言葉をどうにかしたいとあがいていた。

 そのころの感覚をふとおもいだした。

(……未完)