2012/12/12

澄江堂主人

 冬になると、調子をくずしやすいのは、寒いからだけでなく、外出しなくなって、歩く時間が減るせいもあるかもしれない。からだを動かさないと思考も鈍る。今さらだが、そんなことに気づいた。

 先月、山川直人著『澄江堂主人』(全三巻、エンターブレイン)が完結した。芥川龍之助や宇野浩二ら当時の文士がみんな漫画家という設定でフィクションの余地を残しつつ、円本ブームとか言論弾圧とか、ちゃんと文学史、出版史をおさえている。

 芥川龍之助の生きた時代が活き活きと描かれていて、大正、昭和初期の空気が伝わってくる。その空気は今の時代に不思議と通じる部分もある(震災や不況など)。
 やっぱり田端文士村の雰囲気は憧れますね。あと時々登場する百閒先生が妙におかしい。もちろん借金のシーンもある。

 後篇では、キリスト教に傾倒していく芥川の内面の世界が「絵」になっていて、ただただ「すごいものを読んでいる」という気持にさせられた。

 一時期、芥川龍之介の評伝は熱心に読んだことがあったが、芥川の作品自体は二十年くらい読んでいない。何冊か読み返したくなった。

 夕方、神保町。神田伯剌西爾で珈琲を飲んでから書店をまわる。
『生誕120年芥川龍之介』(関口安義編、翰林書房)に、山川直人さんの「平成に読む芥川龍之介」というエッセイも収録されている。

 山川さんは三十代半ばに芥川の全集を毎月配本順に読んだ。それから十年後に『澄江堂主人』の連載をはじめる。

《せっかく漫画で描くからには、何か一つ大きなウソを入れたい》

『生誕120年芥川龍之介』には芥川ポーズ(右手をあごにそえる)をする太宰治の写真(三パターン)もあった。
『澄江堂主人』にも太宰が芥川の真似をするシーンがちらっと出てくる。わたしの記憶では高見順もこのポーズをしている写真を見たことがある。