今月の『本の雑誌』は『アップダイクと私 アップダイク・エッセイ傑作選』(河出書房新社)について、『小説すばる』は、中馬庚と正岡子規のことを書いた。いずれも野球の話である。
ここのところ、どう考えても野球に時間をとられすぎている。試合の結果に一喜一憂し、そのあと各選手のデータを追いかけ、ファームの情報までチェックして、片っぱしから野球の本を読んで……なんてことをやっている暇はない。ほどよくのめりこむことができない。
でもその時間は、何かしらの養分になっている気がする。そう信じたい。
アップダイクは、エッセイやコラムから入った。いまだに代表作の長篇「うさぎ四部作」を読んでいない。短篇では『アップダイク自選短編集』(岩元巌訳、新潮文庫)所収の「絶滅した哺乳動物を愛した男」が好きだ。出だしの数行で完全に心をつかまれた。
《いずれは名前も忘れられてしまうような都市に、セイパーズはどちらかといえばひどい形で生きていた。ちょうど人生の岐路ともいうべき時で、数多くの絆をかかえていたが、そのどの一つも彼をはっきりと結びつけるというものではなかった》
セイバーズはひまがたっぷりある。時間潰しに絶滅した哺乳動物の本を読む。
彼は生存に適した進化ができず絶滅してしまった動物に共感する。
「そのような動物をどうして愛さないでいられよう?」
傍から見れば、無意味で無益な趣味であっても、人を現実につなぎとめる何かになる。
ユーモア・スケッチの傑作といってもいい作品である。