二〇一三年四月二十日、第2回電王戦でA級の三浦弘之八段とGPS将棋の対局が行われた。先手のプロ棋士は一度も王手をかけないまま、コンピュータに寄せきられた。
プロ棋士対コンピュータは一勝三敗一分。完敗である。
しかも三浦八段は今期A級2位、プロの中でもトップクラスの棋士である。
コンピュータの進化のスピードを考えれば、いつかはトップ棋士が負けるときが来るとはおもっていたが、ついにその日が来てしまった。
一局だけですべてを判断するのはまだ早いのかもしれないが、時代の転換期を迎えたことはまちがいない。
今回の電王戦でいえば、第二局で、コンピュータ戦のプロ初敗北を喫し、うなだれている佐藤慎一四段の姿は見ていて痛ましかった。この勝負で彼が背負っていたものはあまりにも大きすぎた。昔、柔道ではじめて外国選手に負けた日本人選手のようだなとおもった(……リアルタイムで見たわけではない)。
いつかは誰かが引き受ける運命だった。それがたまたま彼だった。
コンピュータに負けたことは不名誉なことではない。コンピュータ将棋は人類のほとんどが勝てない化け物に成長したというだけの話だ。
人間には感情があり、勝ってほっとしたり、負けて落ち込んだりする。緊張もするし、焦りもする。計算能力が互角かそれ以上になれば、感情もなく、疲れることを知らないコンピュータとの戦いは、不利なところも多い。
一将棋ファンとしてはプロ棋士とコンピュータの対決は見ごたえがあった。これほど「勝ちたい」というより「負けたくない」というおもいが伝わってくる対局を見たのははじめてかもしれない。
今まではコンピュータがプロ棋士に勝てば快挙だったのが、これからはプロ棋士がコンピュータに勝てば快挙というふうに変わっていくだろう。
将棋界だけにとどまらず、もっと大きな変化も起こる予感がする。
いや、もう起こっている。
人はコンピュータと競争すべきなのかどうか。
長考を要するテーマである。