2013/10/09

胞子文学名作選

 倉敷の蟲文庫の田中美穂さんが編者の『胞子文学名作選』(港の人)は、いちど手にとってみてほしい本だ。何種類の紙をつかっているのか数えてほしい。

 この本は、苔、羊歯、藻類、きのこや黴などの菌類といった胞子によって繁殖する生物にまつわる詩、俳句、短歌、小説、随筆——編者の田中さん曰く「『胞子性』を宿した作品」を集めている。

 永瀬清子「苔について」、多和田葉子「胞子」、井伏鱒二「幽閉」、尾崎翠「第七官界彷徨」、金子光晴「苔」など、「あの作品もこの作品も胞子文学なんだ」とおもいながら読む。これまで「胞子」のことを気にしながら本を読んだことはなかった。なんとなく顕微鏡で文学を読んでいるかんじもする。

 わたしは散歩しているときに、「あ、苔だ、あ、菌類だ」とおもうことは、あまりないのだけれど、「胞子」という視点で世の中を眺めている人がいて、それを言葉にしている人がいることを知るだけでも、人生が豊かになる。

 自分にはない視点に気づくこと自体、読書の醍醐味だとおもう。

 田中さんの本の読み方はヘンだけど、おもしろい。