2018/06/02

根拠地

 もう六月。疲れ気味。人生百年時代という言葉は見ているだけで疲れる。人生五十年、あとは余生というのが理想だ。しかし今年の秋、四十九歳になる。人生設計はむずかしい。
 あまり先のことは考えず、一年一年、休み休み、怠け怠け、どうにか乗りきれたらいいと……。

《十五歳の頃、私のいた学校の博物室に、ガラスケースに入った一本の鉛筆があった。それは、百年まえにソローがつくった鉛筆だということだった。ソローは、その頃のアメリカでは指折りの鉛筆づくりの名人だった。だから、しばらく時間をまとめて、鉛筆づくりに専心すると、そのあとは完全になまけて自分の考えにふけって暮せた。これは、時間の中に設計される根拠地の思想といっていいだろう。鉛筆をつくっている時間が、ソローが生きたいように生きるほかの時間をささえる根拠地となる》

『鶴見俊輔著作集』(五巻、筑摩書房)の「根拠地を創ろう」というエッセイの一節。

 ヘンリー・デイヴィッド・ソローは一八一七年生まれ。昨年生誕二百年だった。
 ソローは、エッセイその他を読むかぎり、かなり偏屈な変人だった。それでも「鉛筆づくり」の技術があった。
 筆一本で食うのは大変だが、ソローの場合、筆を何本を作り続けることで自由気ままな創作活動を続けることができたといえる。

 手に職、大事だ。とくに社会不適応者は。