2019/06/22

家の話

「土地鑑」という言葉は元々警察用語だったらしい。長いあいだ、わたしは「土地勘」とおもっていた。

 インターネット上では、しょっちゅう「持ち家か賃貸か」という議論がまとめられている。わたしは生まれてこの方、ずっと賃貸暮らしである。家を買うという発想もなかった。
「持ち家か賃貸か」の議論は、仕事、収入、家族構成、年齢その他によって意見が分かれる。何より個人の価値観もちがう。単に損得の問題ではない。
 賃貸は引っ越しが楽だし、収入に応じて住み替えられる気楽さがある。持ち家だと、自分の好みの間取りができるし、何より家賃を払い続けるプレッシャーから解放される。

 先日、読んだ議論には、築年数の浅い中古のマンションを買って、価格が下がらないうちに買い替えるのがいいという意見もあった。
 人気の町の駅近のマンションだと不動産価格はそんなに下がらない。買ったときと同じ値段くらいで売れたら、ただ同然で住んだようなものだ。多少、値下がりしても、その差額が家賃を払い続けた額よりも安ければ、得したことになる。そういう暮らし方をするには、それなりに物件を見る目、知識も必要だろう。世の中には賢い人がいる。

 五十歳を前にして、一生賃貸という信念に迷いが生じている。不動産屋のサイトで地方の格安の一軒家を見つけるたびに「仕事がなくなったら移住もありかな」と考える。もし移住するなら、元気なうちがいい。最近、百円の家の広告を見た。百万円の誤植ではない。
 ただし、土地鑑のない場所、知り合いがひとりもいない場所はちょっと不安だ。わたしは車の免許を持っていないので歩いて暮らせる町という条件だけは譲れない。

 町の様子は住んでみないとわからない。駅の南口か北口か、三丁目か四丁目か、ちょっと道を一本こえるだけで、町の雰囲気が変わる。同じ町内でももより駅がちがう場所もある。知らない町だと、そういうことが判断できない。

「持ち家か賃貸か」の話で、もし家を買うなら、最初は賃貸に住み、しばらく暮らしてからのほうがいいとアドバイスしている人がいた。今のところ、買う予定はないが、わたしもそうしたい。移住するしないにかかわらず、土地鑑のある町を増やしたい。