2021/04/21

梅崎春生と甲州街道

 街道について調べ、掘り下げていけば、文学とつながる。すくなくともわたしは地図を片手に小説や随筆を読むようになった。知らない地名が出てきたら、地図を見る。
 街道以前と以後で読書の仕方が変わってしまった。

 梅崎春生の「拾う」(『梅崎春生全集』第三巻、新潮社)を読む。

《新宿から甲府にむかう甲州街道。その新宿から一里ほども来たところに、下高井戸というへんてつもない宿場がある。そこは街道と上水の間を、ほこりっぽい空地で区切って、都心からくるバスの終点にもなっている》

 文中の「上水」は玉川上水。世田谷付近は、甲州街道と玉川上水が並行している区間がある。「拾う」は現代の街道を舞台にした短篇である。主人公の穴山八郎は、その後、「拐帯者」にも登場する。穴山はあるものを「拾う」。その心理と行動を精密に描く。片岡義男の「給料日」と似ているかもしれない。

 ちなみに直木賞受賞作の「ボロ家の春秋」も甲州街道が出てくる。

 晩年の梅崎春生が住んでいた豊玉中二丁目(練馬区)は、町の真ん中を環状七号線(環七)が通っていて、高円寺から赤羽や王子行きのバスの停車所もある。