神保町の書店めぐり。新刊書店の棚を見ていると、今の自分の興味、関心がどんな感じなのかなんとなくわかるような気がする。
移動、移住、住まい、地理、川、街道——。すこし前まで老いや余生に関する本をよく手にとっていたが「もうちょっと先でいいかな」とおもうようになった(ちょこちょこ集めてはいる)。
今月ちくま文庫のラインナップがいい。ぱっと見ただけで読みたいとおもった本が何冊もある。橋本倫史『ドライブイン探訪』、宇田智子『増補 本屋になりたい この島の本を売る』、横田順彌『平成古書奇談』、今和次郎『ジャンパーを着て四十年』が同じ月に出るのとは……。
家に帰ると『フライの雑誌』の最新号が届いていた。特集は「子供とフライフィッシング」。特集ではないが、樋口明雄さんの「ウラヤマ効果」は心身のメンテナンスの仕方、都会型の孤独と自然型の孤独に関する思索、それから歩くことの効用など、「こういう文章が読みたかったのだ」と興奮する。
もともとわたしはインドア派で家でごろごろだらだらするのが大好きだったはずなのに、三十代後半、四十歳前後から体力や気力の低下にともない、自分が楽しいとおもえることすら疲れてつらくおもうようになった。これはいかん、何とかせねばと試行錯誤を経て、川歩きや街道歩きにたどりついた。
二十代のころ、ある評論家と飲んでいたとき、「人間というのは足が弱ると頭も弱る」といっていた。その人はわたしの父と同い年だったから、当時、五十二、三歳だったか。結局、文章を書くのも体力が必要で、四十代、五十代あたりで躓く人が多い(わたしもしょっちゅう転んでいる)。今まで通り、ふだん通りというのがだんだん難しくなり、適度に休みながら、ごまかしごまかし生きている感じだ。