昨日(十五日)は西荻窪の昼市に行ってきた。この日は昼本市(ひるほんいち)もやっていて、軒先で箱にいれて古本を売っていた。午後二時すぎに行くと、退屈男君と書肆アクセスの畠中さんが並んで古本を売りながらビールを飲んでいたので、酒宴にまぜてもらう。
天気もよく、インド料理屋とタイ料理屋に囲まれたほそい路地なので、飲んでいるうちに旅先にいるような、いい気分になる。バサラブックスの福井さんにハンサム食堂の人を紹介してもらう。
退屈君が気になるといって注文した「インド中華」が妙にうまかった。とんこつではない白い塩味のスープに短めの麺で、けっこう酒と合う。
途中、音羽館に行く。『尾形龜之助全集 増補改訂版』(思潮社)が売っていたので、酔っぱらったいきおいで買ってしまう。
《夕方になつてみても
自分は一度飯に立つたきりでそのまゝ机によりかゝつて煙草をのんでゐたのだ。
そして 今
机の下の蚊やりにうつかり足を触れて
しんから腹を立てて夜飯を食べずに寝床に入つてしまつた
何もそんなに腹を立てるわけもないのに
こらえられない腹立たしさはどうだ
まだ暮れきらない外のうす明りを睨んで
ごはんです−−と妻がよぶのにも返事をしないでむつとして自分を投げ出してゐる態は……
俺は
「この男がいやになつた」と云つて自分から離れてしまいたい》
(「愚かしき月日」)
天下一品のだめ人間の詩。尾形亀之助の詩は、ほとんど部屋の中で寝っころがっている詩ばかりなのだ。
《( 服と帽子が欲しい )
私は酒ばかり飲んでゐたので
このひと月は何もしないでしまつた
二月は二十八日でお終ひになつてゐた》
(「春が来る」)
尾形亀之助の詩にたいして「だからどうした」といってもしかたがない。
貧血気味なので、近所の大将三号店でレバー三本、ハツ一本持ち帰りで買ってひとりで食う。ひさびさに体重計に乗ったら、昨年末から五キロくらい減っている。酒ばかり飲んでメシをあまり食わないのがいけないのはわかっている。太るためにはまず酒を減らさないといけないのもわかっている。ただ残念なことに酒の量を減らす方法がわからないのである。
最近どうも爪がよく割れたり、ふけがすごく出たりして、老化がすすんだのかとおもっていたのだが、どうやら栄養不足が原因だったようだ。でもやっぱり齢のせいも多少はあるのか。
夜は、古本酒場コクテイルで南陀楼綾繁さんとオヨヨ書林の山崎有邦さんのトークショー。ゲストは岡崎武志さん。西荻窪の昼本市から流れてきたお客さんが多数いる。まあ、わたしもそのひとりなのだが……。
その日のお題は、まもなく開催される不忍ブックストリートの一箱古本市にからめて本の「函」の話だった。それにしてもマッチ箱からミニコミから戦前の本まで、南陀楼さんのその守備範囲の広さにはいつも驚かされる。オヨヨさんが函入の中原弓彦(小林信彦)の『汚れた土地』(講談社)を出すと、すかさず岡崎さんが「ハイ、百円から」と振り市の掛け声。
そのまま二次会(また焼鳥屋であった)にも参加し、なんだかんだと十時間くらい酒を飲んだ。
家に帰って、テレビを見て、三重県で震度五強の地震があったことを知る。わたしは震源地の亀山市のとなりの鈴鹿市に十九歳まで住んでいたのだけど、ほとんど地震の記憶がない。
鈴鹿で震度五なんてはじめてじゃないかなあ。
いちおう朝、親に電話してみた。
「ちょうど車に乗っとってわからんかったわ。電車は止まったみたいやけどな」
その後、三十分説教される。
無事でなにより。