学生のころは四月になると、進級や進学などがいろいろあって、変化にとんだ季節だったようにおもえた。大学を中退して、フリーライターになってからは、これといってなんてことのない月である。気がつけば、ゴールデンウィークに突入し、それがすぎれば、夏がくる。
自由業というのは、変化がありそうでないものだ。生活は不安定だが、その不安定さはわりと一定している。忙しかった月の翌月か翌々月は収入が増え、ひまだった月の翌月か翌々月は収入が減る。基本はそのくりかえしである。
それでも四月は、情緒不安定になりやすい。わたしは例年、穀雨(四月二十日ごろ)のころが、ちょっとだめだ。
藤巻時男著『天氣と元氣』(文藝春秋、一九六〇年)という本を読んでいたら、「春は冬の寒さが夏の暑さに変わる時期であり、秋は寒い冬のおとずれる季節で、どちらもお天気の変動激しく、寒暖交互に来たり、降ったり照ったり、体に対して色々の刺戟が加えられる試練の時であります」と書いてあった。
試練の時か。そうかもしれない。ただ、そうとわかっていれば、すこしは気も楽になる。
不安な気分になったときは、半分くらいは天候のせいだとおもえばいいのである。
(……以下、『活字と自活』本の雑誌社所収)