2010/04/20

仙台・閖上

 土曜日、仕事後、そのまま東京駅に行く。八重洲古書館を見て、新しくできたセルフうどん屋でうどんを食い、新幹線に乗って、電車の中でイビチャ・オシムの新書を読みながら、仙台へ。
 午後九時、ブックカフェ火星の庭に到着。ウィスキーを飲む。それから国分町のミステリーやSFのことにたいへん詳しい店主がいる小料理屋、近藤商店をはしご、うまい酒と料理(語彙不足)を堪能していたら、午前四時に。完全に時間の感覚がおかしくなっている。

 前野宅で昼すぎまで熟睡後、仙台文学館に案内してもらい、太宰治展を見る。記憶の底に沈んでいた小説の書き出しをおもいだす。そんなに期待していなかったのだが、書簡、ハガキ、着物、写真、あらゆるものから、ただ者ではない空気が伝わってくる。ひとつひとつの展示の前で足が止まる。人間の負の部分をいっぱい背負った才能の凄みに理屈ぬきでまいる。

 夕方、前野さんとバスで閖上(ゆりあげ)に行く。閖上は仙台の南東に位置する漁港。
 名取川の下流、橋でつながっているが、ほんとうは島らしい。魚市場、朝市もあって、ちょっと歩くと、目の前に太平洋が広がっている。絶景である。まったくリゾート化していない、昔ながらの海である。

「仙台のこんな近くにこんなところがあったんですね」と生まれも育ちも閖上のKさんにいうと、「こんなところって」と苦笑い。Kさんは四児の父親で、小学生の男の子ふたりもついてきて、はしゃぎまわり、走りまくる。

 昨年秋、Kさんとは佐伯一麦さんの読書会で知り合った。朝まで飲んだ。そのときに閖上の話を聞いて、行ってみたいとおもった。
 魚市場のちかくの寿司屋で赤貝丼をごちそうになる。
 そのあとKさんの家で宴会になる。笹屋茂左衛門という日本酒を飲む。酒がすすむにつれて、つまみと本(尾形亀之助、牧野信一、川崎長太郎など)が次々と出てくる。気がついたら、帰りの電車がない時間になる。

 こうなったら朝まで飲むしかない。一晩中、Kさんの文学熱に圧倒される。

 ふと気づくと、かかっている音楽がちがう。Kさんも、飲むと、即興DJになるタイプのようだ。
 わたしも酔うと、レコードやCDだけでなく、本や漫画をすぐ出して読ませようとしてしまう。ときどき、閉口される。

 結局、朝まで飲んで、雑魚寝。寝ているあいだ、Kさんの子どもが(ややおびえながら)足音を立てずにランドセルをとりにきていたという話を後で知った。