この二ヶ月くらい、ずっと思考と感情がちぐはぐな状態が続いている。
お気楽な身の上でありながら、愚痴や不満をこぼしてばかりいるのは、どうなのかとおもう。どうなのかとおもうが、どうすればいいのかわからない。
五月末、東京駅から深夜バスで仙台に行った。扉野良人さんの誘いだった。バスは途中、佐野と安達太良のサービスエリアに止まった。降りる人は少なかったが、わたしは降りた。真っ暗なバスの中で、帰ってから書く予定の原稿を頭の中で考えていた。
早朝、火星の庭に着くと、おにぎりとお茶と布団が用意されていた。ありがたい。
この日の河北新報の一面は、前日の宮城沿岸を襲った大雨と強風の記事だった。
昨年十月に佐伯一麦さんの読書会で仙台に行っている。あれから半年以上経っている。この三年間くらい、二、三ヶ月に一度のペースで仙台通いをしていた。春、夏、秋、冬、どの季節に行っても、すごしやすい。食い物がうまい。くつろげる。
火星の庭で知り合った人たちと飲むのも楽しい。
昼すぎ、前野久美子さんの運転で塩釜、石巻、七ヶ浜を案内してもらう。
車の中から町を見ると、道一本、川ひとつ隔てて、津波に巻き込まれた場所、巻き込まれなかった場所が分かれている。
石巻の日和山公園から北上川の河口付近を見た。マルハニチロの建物があって、そのまわりは更地になっている。その更地の上にショベルカーやトラックがまばらに行き来している。
テレビの映像で何度も見た光景だったが、呆然とした。
七ヶ浜のほうは倒壊して家、横転した車が残っていた。屋根の上に船が乗っている。
前野さんの説明によると、このあたりは高級住宅地とのことだった。大きな家が多い。海がきれいで、関東でいうなら、湘南とか鎌倉とかの雰囲気に近い。
視覚からの情報でからだが重くなる。生まれてはじめての経験だった。
避難所で暮らす人が「仮設住宅ができたらすぐ出ていくから」という理由で不動産屋に部屋を貸してもらえないという話も聞いた。
夕方、仙台市内に戻ってきて、メディアテークの向いの喫茶ホルンに行った。三月はじめにオープンしたばかりのyumboの渋谷さんの店。お店をはじめてすぐ地震にあった。ひっきりなしにお客さんが来る。もう何十年も続いている店のような不思議な落ち着きのある店だった。またひとつ仙台に遊びに行く楽しみができた。
夜、扉野さんの知り合いの仙台在住で東北大学博士課程で数学を研究している学生と待ち合わせて、住宅街のアパートの一室で営業しているごはん屋つるまきに行く。店主は、版画家の若生奇妙子さん。お店のコンセプトは「ごはんのときだけシェアハウス」。
ごはん屋つるまきには、Book! Book! Sendai!のスタッフの人たちも集まっていた。
かねてから扉野さんと火星の庭の前野健一さんが似ているとふたりを知る人のあいだでは評判になっていたのだが、この日、念願の二ショットを見ることができた。顔だけでなく、表情やのんびりした雰囲気も似ている。
本人同士も「似てるとおもいます」といっていた。
日付が変わってしばらくして、コタツに入って手料理を食って、お酒を飲んでいるうちに、いつの間にか寝てしまった。楽しかったなあ。生きているからには楽しまなければ損だとおもった。
(……続く)